「デンマークで手紙の配達が廃止される」という話は本当なのか?

日本の新聞等でも、「デンマークで手紙の配達が廃止される」という報道がありました。結論から言えば、「デンマークで手紙の配達が廃止される」というのは間違いで、正確には次のように整理できます。主語は大切ですね。

デンマークの郵便事業者の一つであるポストノルドデンマーク(Post Danmark A/S)が、2025年末で手紙の配達事業を終了する。全国に設置されている同社の郵便ポストも解体・撤去される。手紙を配達してもらいたい時は、他の郵便事業者のサービスを利用する。

デンマークを含む北欧の郵便サービスは、日本に比べるとかなり自由化が進んでおり、宛名付きの手紙の配達は法律上も実質的にも独占業務になっていません。手紙の配達を行う事業者は、全国に郵便ポストを設置する必要は無く、配達エリアも地域を限定することができます(デンマーク郵便法)。

ポストノルドデンマークからの公式発表を見てみると、次のような質問と回答があります。

質問:2026年から手紙を送らなければならないときはどうすればいいですか?
回答:2026 年1月1日以降に手紙を送る必要がある場合は、市場に出回っている別の郵便事業者を利用する必要があります。

例えば、デンマーク運輸局による郵便輸送許可証(2024年1月1日から有効)を見ると、ミッドベスト共同販売会社(SAMDISTRIBUTIONSSELSKABET MIDT-VEST A/S) に対して、「重さ2kgまでの宛名付き手紙」の事業を許可していることがわかります。同社のウェブサイトでは、「デンマーク中部の最もカバー力のある流通会社」と宣伝しています。

最後に、デンマークの電子政府についても触れておきましょう。デンマークには、国民識別番号(CPR番号)を持っている人や法人登録されている企業等は、公的機関からの各種通知等を電子データで受け取ることができる「デジタルポスト(Digital Post)」があります。デジタルポストは、「市民のためのデジタルポスト「と「企業向けデジタルポスト」がありますが、行政機関(自治体を含む)が別の行政機関へ通知する際にも利用できます。

この図は、デンマークの公的機関 (市町村、地域、州当局) と住民および企業の間でデジタル ポストを安全に送信するためにデジタル ポストがどのように使用されているかを示しています。

出典:デンマークデジタル庁

デンマークの興味深いところは、デジタルポストに届くメッセージを読むことを15歳以上の市民に義務付けていることです。デジタルポスト利用の義務化が始まったのが2014年頃ですから、すでに10年以上の義務化の歴史があります。エストニアにも、同じようなサービスとして公式メールボックスがあり、行政機関からの公的な通知をデジタルで受け取ることができますが、デンマークのように義務ではありません。

「公共サービスにおけるデジタル利用の義務化」については、日本でも議論が分かれる問題ですが、エストニアの場合はデジタル以外の選択肢を用意しておくことが、安全保障の観点からも重要と考えています。もちろん、デジタルデータのバックアップや障害からの復旧について平時から確認・訓練しておくことも大切です。