電子公証・電子定款のカラクリ(2):オンライン化でどうなる?
電子公証・電子定款のカラクリ(1)の続きです。今回は、意見募集している改正省令案の内容から、オンライン化された電子公証サービスを読み解き、今後のあり方を考えてみたいと思います。
●主な変更点(個人の利用)
1 法務省オンライン申請システムを経由したオンラインサービスになる
2 嘱託・請求(いわゆる「上り」)については、公証役場へ行く必要がなくなる
3 電子定款等の交付(いわゆる「下り」)については、公証役場まで行って取得する必要がある
4 一部のサービス(日付情報の付与、情報の同一性に関する証明)については、請求も交付もインターネット経由でできる
5 サービスを利用するために必要な有償ソフトウェアの数が減る
6 公的個人認証サービスの電子証明書が使えるようになる
7 取り扱える文書ファイルの容量が増える(800KBから4MBへ)
あくまでも予定ですが、おおよそこんな感じです。
関連>>電子公証制度の利用方法が変わります(日本公証人連合会)
それでは、個別に見てみましょう。
●法務省オンライン申請システムを利用すると
公証人が、「公的個人認証サービスの電子証明書による電子署名」を検証できるようにするための措置ですが、利用者から見るとサービスがオンライン化されるメリットが大きいでしょう。
このように、各省庁が運営する電子申請システム(電子署名対応のもの)を使うことで、一般公開されていない「公的個人認証サービスの電子証明書」の情報を確認・検証できるようになります。
以前から電子署名の検証を訴えている司法書士さんからすると、「公証人だけズルイ。じゃあ、うちも。」となるでしょうね。その場合、司法書士さんの所管は法務省ですから、断れない(断る理由がない)と思います。
もちろん、利用料金等は請求されるでしょうけど。今回の電子公証制度のオンライン化にあたり、公証人側も費用負担してるはずです。
なお、各都道府県等で運営する電子申請システム(電子署名対応のもの)でも、同様に「公的個人認証サービスの電子証明書」を検証できます。
●オンライン化で利用者の負担は減る?
サービスの利用については、原則として「オンラインで受付けますよー」、「でも窓口まで取りに来てくださいねー」となります。
なんとも、中途半端なオンラインサービスになるわけです。もちろん、業務時間にも変更はありません。
※公証役場の営業時間は、平日8:30(9:00)~17:00で土日、祝日、祭日はお休みです。
・電子文書等をオンラインで交付する
・紙文書も窓口や郵送等で交付する
とすれば良いのですが、これをやってしまうと、全国約300ある公証役場の縄張り(地域性)が崩壊してしまいます。
関連>>全国公証役場所在地一覧
電子定款を認証するのに、地域性は全く関係ありませんので、全国で一番早くて安くて信頼できる公証役場にオンラインで依頼して、オンラインで交付してもらう。
これが国民が望むサービスと思うのですが、それを実現させないカラクリ(制度)があるのは困ったことです。
なお、一部のサービス(日付情報の付与、情報の同一性に関する証明)については、請求も交付もインターネット経由でできるようになります。
●まだまだ敷居が高い、電子公証サービス
法務省オンライン申請システムには、
・電子文書(申請書)の作成
・電子文書への電子署名の付与
・電子公文書(電子署名を含む)の検証
といった機能が備わっています。
じゃあ、オンライン電子公証サービスでは、利用者が有償ソフトウェアを用意する必要がないのね。と思ったら、実はそうではありません。
法務省(かベンダー)が「PDF形式」に固執するために、依然として「アドビアクロバット」等の高価なソフトウェアが必要となります。
※「PDF形式」を採用する場合でも、利用者に有償ソフトウェアを用意させないで、システム側に同様の機能を持たせることが可能です。
関連>>法務大臣が指定する電子署名の方式等(長いですが、最下部あたりを見てみましょう)
●電子定款に必要なもの(オインライン電子公証の場合)
前回のブログでは、「電子定款に必要なもの」として、次のような説明をしました。
Windowsパソコンやワープロソフト等に加えて、次の4つが必要となります。
1 対応する電子証明書:1~2万円ぐらい
2 電子署名に対応するPDF作成ソフト:1万4千~6万円ぐらい
(アドビのアクロバット6.0スタンダード以上など)
3 電子署名プラグインソフト:1~2万円ぐらい
4 認証された電子文書の閲覧検証ソフト:1~2万円ぐらい
これが、今回追加された「公的個人認証サービスの電子証明書」でオンライン電子公証サービスを利用すると、次のようになります。
1 公的個人認証サービスの電子証明書:1000円(住基カードを含む)
2 ICカードリーダ(住基カードを読み取る装置):3500~2万円ぐらい
3 電子署名に対応するPDF作成ソフト:1万4千~6万円ぐらい
(アドビのアクロバット6.0スタンダード以上など)
初期投資が5~10万円だったのが、2~8万円ぐらいとなりました。
うーん。依然として、利用者の負担は大きいですね。
関連>>PDF署名された委任状ファイルを申請書に添付する(法務省オンライン申請システム)
●電子申請・電子公証サービスを複雑化するICカード
電子申請が利用されない理由として、電子証明書(電子署名)が槍玉に挙げられることがありますが、それよりも深刻なのは「ICカードに関係する問題」です。
関連>>IC・ID カードの相互運用可能性の向上に係る基礎調査
電子公証で利用される「法務省オンライン申請システム」でも、ICカードタイプの電子証明書を使う場合は、電子署名を行うためのソフトウェアが別途必要になります。
関連>>ICカード格納型電子証明書を利用する際の留意事項(法務省オンライン申請システム)
公的個人認証サービスの電子証明書を使う場合、無償配布されている「利用者クライアントソフト」が必要です。
このソフトを、ICカードリーダに繋いだパソコンにインストールして、ようやくICカード(住基カード)に格納された公的個人認証サービスの電子証明書を使えるようになります。
ところが、上記法務省の留意事項を読むと、
—引用開始—
公的個人認証サービスが提供している利用者クライアントソフトVer2につきましては、法務省オンライン申請システムではご利用いただくことができません。
お手数ですが、市区町村の窓口にて配布しているCD-ROM又は公的個人認証サービスポータルサイト(http://www.jpki.go.jp)から利用者クライアントソフトVer1を取得の上、同ソフト(Ver1)をご利用いただきますようお願いいたします。
—引用終了—
と書いてあります。
うーん。「利用者クライアントソフト」は、セキュリティや不具合等に配慮してバージョンアップしたのだと思うのですが、旧バージョンを使ってくださいとは、これ如何に?
ICカード(スマートカード)の問題は、決してICカードが悪いのではなく、人(利権)が絡むと、優れた仕組みやモノも、いびつな形に歪められてしまう、ということですね。
とても残念なことです
●国民に愛される電子公証サービスとなるためには
公証制度は、公共性の高いサービスであり、そこには公平性・信頼性・公開性が求められると共に、時代に合ったサービスを改善・提供していくという競争性や進歩性も求められるのだと思います。
「国民が望むサービスは何なのか」を考えながら、既得権益に縛られること無く、「国民に愛される高尚な公証サービス」を目指して欲しいですね。
関連>>ドイツ公証人制度調査報告書(日弁連 消費者問題対策委員会)
なお、法務省に提出したパブリックコメントで、具体的なサービスの改善案についても、ちょびっと触れておきました。