電子政府における実装規約の役割(2):「開発者の視点」で民間サービスとの連携を強化
「電子政府における実装規約の役割(1):考え方は法律と同じ」の続きです。今回は、「電子申請」における実装規約を見ながら、「電子政府」における「実装規約」の役割と今後のあり方を考えてみたいと思います。
●電子申請にも実装規約があった?
前回のブログで述べたように、国の電子申請システムでは、各省庁でバラバラに乱立するという問題が起こりました。
ちょっと時系列で整理してみましょう。
関連>>電子政府タイムテーブル
★平成13年8月6日
申請・届出等手続のオンライン化に関わる汎用受付等システムの基本的な仕様
いわゆる「汎用電子申請システム」について、基本仕様が策定されました。
★平成14年3月27日
総務省電子申請・届出システム等の運用開始
基本仕様に基づいて構築された電子申請システムの運用が、一部の省庁で始まりました。先行したのは、総務省、国土交通省、経済産業省です。
★平成14年3月29日(最終改定:平成15年6月6日)
汎用受付等システムの構築・運用に関する共通事項
基本仕様に基づく電子申請システムの構築・運用について、各行政機関間で整合性を図る事項が確認されました。
総務省の電子申請システムの運用開始より後の日付となっており、相互運用性に関する認識の変化が見て取れます。
実際に電子申請システムを構築し、テスト等をする過程で、「このままではマズイ」「基本仕様だけでは不十分だ」「相互運用性を確保するために、省庁間の調整が必要だ」と考えたのではないでしょうか。
この共通事項中には、「共管手続における構成管理情報の実装規約(XMLタグ名、フォーマット等)」(PDF)なども含まれています。
国の電子申請でも、割と早い段階で「実装規約」が存在したのですね。
★平成15年4月28日
電子申請システムの比較
国の電子申請のバラバラな状況について、作者が整理したものです。
総務省が運用を開始した1年後には、ほとんどの省庁で電子申請が始まりました。
しかし、「申請先ごとにパソコンが必要なの?」と言われるぐらい、かなり深刻な状況となってしまったのです。
★平成16年3月31日
行政ポータルサイトの整備方針(PDF)
「電子政府構築計画」(平成15年7月17日)に基づき、「行政ポータルサイトの整備方針」が定められ、各省庁の汎用電子申請システム(汎用的に処理できる手続)を、国の電子政府ポータルサイトである「e-Gov(イーガブ)」の「窓口システム(仮称)」に統合するとされました。
互換性・相互運用性の低い各省庁の汎用電子申請システムは、利便性だけでなく、運用・維持費用の点からも問題が多かったので、一つに統合されることになったのです。
★平成17年8月24日
「行政情報の電子的提供業務及び電子申請等受付業務の業務・システム最適化計画」の決定
e-Govに整備する「窓口システム」について、具体的な計画が定められました。
★平成18年4月
e-Gov電子申請システムのスタート
「窓口システム(仮称)」が、「e-Gov電子申請システム」としてスタートしました。
平成19年4月現在まで、次の省庁の汎用電子申請システムが統合されています。
・総務省
・内閣府
・警察庁(国家公安委員会)
・金融庁
・財務省
・国税庁(情報公開法及び個人情報保護法に基づく開示請求等の手続)
・農林水産省
・経済産業省
・環境省
・防衛省
●電子申請では、実装規約が有効に機能しなかった?
「各省庁の汎用電子申請システム」を「e-Gov電子申請システム」に移行・統合する作業は、予想以上に大変で、時間もお金もかかるものとなりました。
共通の基本仕様があり、構築・運用に関する共通事項(実装規約を含む)も確認していたのに、
・出来上がったのは各省庁でバラバラな電子申請システム
・バラバラな電子申請システムを統合するのも大変だった
というわけです。
「実装規約」が有効に機能するためには、
1 「互換性、相互運用性」を確保する必要があり(必要性)
2 「互換性、相互運用性」を確保するに十分な内容であり(質)
3 みんな(大多数の開発者)が賛同して守ってくれる(実行性)
ことが必要と述べましたが、
国における電子申請システムの場合は、
1 「互換性、相互運用性」を確保する必要性の認識が不十分で、対応も遅かった
2 実装規約等があったが、「互換性、相互運用性」を確保するに十分な内容ではなかった
3 開発ベンダー側に「互換性、相互運用性」を確保する意志(メリット)がなかった
と考えられます。
●民間サービスとの連携は、情報公開と支援環境の整備から
「電子申請の仲介サービス、ビジネスとしての可能性は?」でも触れたように、電子申請の普及について、行政だけでできることは尽きてきました。
今後は、「電子申請サービスと民間サービスの連携」が、ますます重要になってくることでしょう。
だからこそ、
・現在稼動している電子申請サービスに関する技術情報の公開
・実装規約、テスト環境・ツールの整備
・民間業者や政府関係者が情報・意見交換できる場(コンソーシアム等)の創設
を提唱したのです。
加えて、カナダのケベック州における電子申告サービスと民間ソフトウェアの関係にあるような、政府からの認定制度を設けるのも有効でしょう。
関連>>ユーザー本位の思想により40%の利用率を実現–カナダ・ケベック州:ITpro|カナダ ケベック州電子政府に学ぶ「使える電子政府」とは?(Japan.internet.com)
日本の電子申請は、「利用者の視点」に欠けると言われますが、利用者にとって嬉しい民間サービスとの連携を進める上での「開発者の視点」にも欠けているのです。
1 仕様の公開について
行政:公開してますよ
民間:一部だけ公開されても困るなあ
2 実装の支援について
行政:仕様を公開してるんだから、後は自分たちでやってよ
民間:実装を支援するツールや仕組みが欲しいなあ
3 テスト環境について
行政:テストなら自分たちでしてください
民間:実際に使えるかのテストは、行政側の協力が無いと難しいなあ
4 完成後のフォローについて
行政:いちおうホームページ等で紹介だけはしましょう
民間:認定制度があると、お客様も安心だし販売しやすいなあ
行政:仕様の変更等は、ちゃんと公開していますよ
民間:急に変更されても対応できないから、事前の協議等が欲しいなあ
これでは、民間サービスとの連携が進むわけありませんよね。
もちろん、省庁によっては、民間開発者の支援に積極的なところもありますが、政府全体で共通の認識を持って支援体制を整えていくことが必要でしょう。
●目標設定は、利用者の視点で
現在の電子政府では、「電子申請システム等の仕様公開について、積極的に進めましょう」となっています。
しかし、これに対する明確な目標設定が無いので、仕様公開も不十分で、開発者の支援体制も少ないというのが現状です。
「仕様公開」は手段であって、目的・目標ではありません。
国民からすれば、「仕様公開されると何かメリットあるの?」となるでしょう。
例えば、税務、登記、社会・労働保険の三分野に関する電子申請について、
政府サイトへのアクセスやアプリケーションのダウンロード等をすること無しに、市販の業務ソフトウェアを使って直接に電子申請できるようにする。
といった目標を設定し、上記のような電子申請対応ソフトウェアについて
・一般向け業務ソフトウェアの市場シェア8割以上
・士業向け業務ソフトウェアの市場シェア9割以上
といった具体的な目標値を設定すれば良いのですね。
こうすれば、国民から見てもメリットを感じられるようになるでしょう。
具体的な目標値を突きつけられた省庁は、開発者の支援に積極的にならざるを得なくなるでしょう。
いずれにせよ、電子政府・電子申請サービスが普及していくためには、国民、企業、行政といった関係者みんなが協力・連携しながら、一緒に考え、作り、改善していくことが大切です