次世代電子政府サービスを考える:これからは行政が国民に合わせる

「重点計画-2007(案)」では、「次世代電子行政サービス(包括的な電子行政サービス)」というものが提唱されています。今回は、作者が考える「次世代電子行政サービス」の考え方について、事例を交えながら紹介しておきましょう。

●今までの発想・やり方から離れる

まず、「次世代電子行政サービス」の基本構想を考えるにあたっては、参加メンバーや体制が重要となります。

「電子政府・電子自治体」の分野では、(作者も含めて)だいたい同じような有識者やベンダーが集まり、新しい人材が育っていません。

同じようなメンバーが集まれば、生まれるアイデアも同じようなものばかりで、とても「次世代電子行政サービス」は実現できないでしょう。

たいぶ前から、ユーザビリティやマーケティング(ウェブ解析)の専門家の参加が必要と言っているのですが、そろそろ本気でメンバーを刷新する時期と思います。

例えば、ヤフー、アドビ、グーグルなどが参加すれば、国民が「次世代電子行政サービス」に対して、「何かやってくれそう。面白くなりそう。」といった期待感を持ってくれるかもしれません。

これが、今までと同じようなやり方だと、「また税金の無駄遣いをしている。。」と思われてしまうでしょう。

●これからの行政は「待ち」ではダメ、「自らが動く」

年金記録問題検証委員会が中間発表、役所もベンダーも組織文化を変えるきっかけに」でも紹介しましたが、年金記録問題が起きた背景として

「社会保険庁の業務に対する待ちの姿勢、管理・評価の不十分さ等が見られる。」

といった指摘があります。

公的年金に限らず、そもそも役所への申請や届出は
・役所のやり方を押し付ける(書式、添付書類、役所言葉)
・役所に国民を来させる(場所、時間の指定)

といったことが当たり前とされてきました。

こうした考え方を改めない限り、「次世代電子行政サービス」なんて言葉を語る資格はありません。

今後は、
・国民のやり方に役所が合わせる
・役所が国民が指定する場所に行く

と「しなければいけない」のですね。

●「何を?」ではなく「どうやって?」が大切

「次世代電子行政サービス」を考える際に、行政やベンダーは、「どの手続を対象とすれば良いか」を気にしているようです。

この時点で、既に大きな間違いを犯しています。

まず考えるべきことは、

・何のためにオンラインサービスを提供するのか
・ターゲットとする利用者は誰なのか

です。利用者を知らずして、「どの手続か」を考えるのは、本当にナンセンスなので止めましょう。

●「給与支払報告書」を例にすると

従業員関連手続きの電子申請、次のステップへ行くために」で紹介した「従業員関連手続きの実態に関する調査」では、「企業の人事・労務担当者」など利用者の絞り込みが行われています。

この調査でニーズや効果が大きいとされている「給与支払報告書」のオンライン化を、「次世代電子行政サービス」で実現する場合を考えてみましょう。

まず、現在予定されている地方税ポータルシステム(eLTAX)を経由した「給与支払報告書」のオンライン提出サービスは、「今までの電子行政サービス」の典型であり、「次世代電子行政サービス」ではありません。

関連>>「地方税ポータルシステム(eLTAX) 第2次システム開発概要説明会開催のご案内」「給与支払報告書」も電子化へ

参加自治体数の少ない「eLTAX経由」では、申請者(提出者)である企業も、受付側(提出先)の自治体も、負担が大きいままだからです。

「次世代電子行政サービス」であれば、

1 企業は既存の「給与支払報告書」データを「法人サービス・ポータル」にアップロードする。この時点で、企業の提出は完了する。
2 各自治体は、LGWANやインターネットを経由して、データを取りに行く。

たったの2ステップで終わりです。

図表>>次世代電子行政サービス:給与支払報告書のオンライン提出

イメージとしては、「法人サービス・ポータル」に、企業用の電子私書箱と自治体用の電子私書箱があると考えれば良いでしょう。

自治体には「地方公共団体コード」があるので、管理も容易です。企業は、とりあえず「法人番号」を共通コードとして利用すれば良いでしょう。

もちろん、「給与支払報告書」以外にも、企業と自治体間のデータやり取り全般に使えます。

後は法改正等で、

「給与支払報告書」については、「法人サービス・ポータル」にアップロードされた時点で「提出」があったものとする。

と定めれば良いのです。

各自治体が、企業に対して独自のデータ項目・様式や提出方法を要求するなんてことは、法律で禁止しないことには、いつまで経っても変わりません。

電子政府・電子自治体では、「地方自治」と「自治体の傲慢」を混同してはいけないのです。

ともあれ、「次世代電子行政サービス」が企画倒れにならないように、今後も慎重な監視と評価をしていきましょう

“次世代電子政府サービスを考える:これからは行政が国民に合わせる” に3件のコメントがあります

  1. 期待したい
    重点計画ー2007(案)の中で、期待したいところは、次です。

    1.5 世界一便利で効率的な電子行政
    -オンライン申請率50%達成や簡素で効率的な政府の実現-””
    の項には、次のようにしています。

    「IT 戦略本部にいわゆるオンブズマン機能を持たせ、国民のための電子申請手続に
    関する苦情を含めた提案を受け付け、受け付けた内容とその処理結果を2008 年度から公
    表する。」

     この部分を大いに期待するところです。このオンブズマン機能が電子申請整備の動きを加速すると思っています。想定以上の効果を生むように思うのです。期待したい。

  2. オンブズマン機能
    iemoriさん、おはようございます。
    いつも、コメントありがとうございます。

    「IT戦略本部のオンブズマン」は、上手く機能すれば、確かに有効ですね。

    実際の仕組みは、これから考えていくようですが、予算の関係もあり、実効性を持たせることは、なかなか厳しそうですけど。。

    民間企業のコンタクト・センターぐらいIT化・効率化・ナレッジ化されて、苦情や提案が具体的なサービス改善に繋がれば良いのでしょうが、現在の行政の力量を考えると、パブコメのような形式的なものに終わってしまう可能性も大きいです。

    実効性のある「オンブズマン」となるように、私も働きかけてみたいと思います。

  3. オンブズマン
    行政の文書に「オンブズマン」と記載している意気込みを高く評価したいのです。

    >
    実効性のある「オンブズマン」となるように、私も働きかけてみたいと思います。

    よろしくお願いいたします。

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