保険証へのQRコード装着中止で、国民不在のICカード化が進む

先日、『「社会保障カード」の導入、厚生労働省まかせは危険』で
・平成18年度中に被保険者証の券面に装着させる二次元コード(QRコード)の標準を示す
・平成20年度に、二次元コード(QRコード)を被保険者証の券面に装着させることを一部保険者に義務化する

と書きましたが、読者の方から新たな情報を頂きました。

それは、「保険証へのQRコードの装着は中止」というものです。

関連>>保険証へのQRコードの装着は中止 厚労省事務連絡 (厚生政策情報センター)

その内容は、
厚生労働省が都道府県の担当部署宛てに出した事務連絡(7月9日付け)で、保険証に二次元コード(QRコード)を装着させる省令の中止を連絡したというものです。

中止の理由は、
・6月19日に公表された「基本方針2007(骨太の方針)」を受けて
・健康ITカードの導入が閣議決定されるなどの状況を踏まえて
とのこと。

関連>>年金記録に対する信頼の回復と新たな年金記録管理体制の確立について
(2007年7月6日:年金業務刷新に関する政府与党連絡協議会)

「経済財政改革の基本方針2007(PDF:2007年6月19日 閣議決定)」
では、「社会保障の情報化の推進 (45ページ)」として、

『個人が自分の健康情報、年金や医療等の給付と負担等の情報を簡単にオンライン等で入手・管理できるとともに、社会保障に関する手続を安全かつ簡単に行うことができる仕組みの構築を目指す。このため、「電子私書箱」(仮称)を検討し、平成22年頃のサービス開始を目指すとともに、「健康ITカード」(仮称)の導入に向けた検討を行い、平成19 年内を目途に結論を得る。これらについては、密接な連携をとって一体的な推進を図ることとし、平成19年度内に、個人情報の保護等に留意しつつ、全体的な基本構想を作成する。』

と明記しています。

また、経済諮問会議に提出された「医療・介護サービスの質向上・効率化プログラム(PDF):平成19年3月16日(柳澤臨時議員提出資料・参考資料)」の最後のページに「社会保障の情報化の将来像(イメージ)」があり、

『ICカード等のキーデバイスを用いて年金受給見込み額、加入履歴等をいつでも閲覧』

との記述が見られます。

「健康ITカード」という名称からわかるように、「自身の健康情報へのアクセスや管理」が売りなのですが、「年金記録へのアクセス・管理」についても新たな売り文句とするようになってきたみたい。

ということで、作者の理解を整理すると

1 「社会保障カード(仮称)」と「健康ITカード(仮称)」は同じICカードらしい
2 保険証へのQRコード装着は中止して、ICカード化(社会保障カード)を進める
3 「社会保障カード」は、年金手帳、健康保険証、介護保険証の機能を持つ
4 「社会保障カード」と「健康ITカード」の基本構想は、平成19年度中に決定
5 「社会保障カード」の導入時期は、平成23年度を予定
6 上記に並行して、「納税者番号」と「社会保障番号」の検討を進める

懸念される問題としては、

1 「ICカードありき」で過大な投資が行われる
2 ICカード化に伴い、関係者(企業、病院等)の負担が増える
3 国民不在のまま、信頼されない・利用されない・使いにくいものになる
4 相互運用性が確保されないまま、様々な公共ICカードが乱立する
5 ICカード化された後の制度変更等により、多大な重複・追加投資が必要となる

これでは、電子政府・電子申請での失敗が、ほとんど生かされていません。

例として、「年金個人情報提供サービス(ID・パスワード方式)」を見ておきましょう

年金個人情報提供サービス」は、年金記録問題で国民の注目を集め、大幅に利用者が増えたサービスです。

関連>>社会保険庁ホームページの利用者数が、官公庁トップの225万人に(Japan.internet.com)

ホームページから利用者登録(ID・パスワード発行申込み)を行い、郵送されてくるID・パスワードを使って、インターネット経由でいつでも年金加入記録が閲覧できるものです。

平成18年3月から平成19年2月までのID・パスワード発行件数が20万件だったのが、
年金記録問題の影響で、平成19年6月のID・パスワード申請数は50万件を超えています。

実は、この「年金個人情報提供サービス」に先行して、

電子文書で「年金見込額試算や年金加入記録」を回答する電子申請サービスがありました。

こちらは、電子証明書(公的個人認証サービス等の電子証明書)を使って、年金加入記録等の交付を請求するものです。

ところが、公的個人認証サービス(住基カード)の取得や利用が面倒ということもあり、ほとんど利用されていません。

そこで、「年金個人情報提供サービス(ID・パスワード方式)」が追加されて、今に至っています。

このように、「ICカードありき」で進めてしまうと、国民不在のサービスとなり、利用されない可能性が高くなります。

言うまでも無いことですが、「ICカード・電子証明書方式」と「ID・パスワード方式」との優劣を問う、といった単純な問題ではありません。

「社会保障カード(仮称)」、「健康ITカード(仮称)」、そして「電子私書箱」については、このままでは本当に危ないので、今後もチェックしていきたいと思います。

関連>>「医療・健康・介護・福祉分野の情報化グランドデザイン」について

“保険証へのQRコード装着中止で、国民不在のICカード化が進む” に6件のコメントがあります

  1. QRコード中止の元ネタ
    厚生労働省が都道府県の担当部署宛てに出した事務連絡(7月9日付け)の3日前に、

    年金記録に対する信頼の回復と新たな年金記録管理体制の確立について(2007年7月6日:年金業務刷新に関する政府与党連絡協議会)
    http://www.sia.go.jp/top/kaikaku/kiroku/070706taisei.htm
    が発表されていました。以下、抜粋です。

    Ⅲ 新たな年金記録管理システムの構築

    今後、年金の記録を適正かつ効率的に管理するとともに、常にその都度国民が容易にご自身の記録を確認でき、年金の支給漏れにつながらないようにするため、年金記録管理の在り方を抜本的に見直す。

    1.新たな年金記録管理システムの導入【平成23年度中を目途】

     現行の旧式の記録管理システム(レガシーシステム)を刷新するとともに、住民基本台帳ネットワークとの連携を確立する。
     これにより、住所異動、氏名変更、死亡といった変動に、社会保険庁の側から十分に対応できていなかった従来のシステムを根本的に改め、これらの変動がある度に年金管理記録に反映される仕組みとする。

    2.「社会保障カード」(仮称)の導入【平成23年度中を目途】

     銀行通帳のような方式ではなく、個人情報を保護する観点から記載内容が他人に見られないよう十分なセキュリティ確保を行った上で、1人1枚の「社会保障カード」(仮称)を導入する。
     また、このカードは年金手帳だけでなく、健康保険証、更には介護保険証の役割を果たす。さらに、お年寄りなどご本人の希望があった場合には、写真を添付し身分証明書としてお使いいただけるものである。年金の記録については、窓口における年金記録の確認はもとより、自宅においても常時、安全かつ迅速に確認できるようになる。
     また、このカードは、基礎年金番号の重複付番の防止にも役立つものである。

  2. なるほど
    前述の参考資料を見ると
    http://www4.sia.go.jp/top/kaikaku/kiroku/taisei1-4.pdf
    ・1人1枚、重複付番なし
    ・希望する方には、写真付きで身分証明書になります
    となっています。

    改めて、作者の理解を整理すると

    1 「社会保障カード(仮称)」と「健康ITカード(仮称)」は同じICカードらしい
    2 保険証へのQRコード装着は中止して、ICカード化(社会保障カード)を進める
    3 「社会保障カード」は、年金手帳、健康保険証、介護保険証の機能を持つ
    4 「社会保障カード」は、写真付きの身分証明書として使える
    5 「社会保障カード」は、「社会保障番号(全国民に付与)」の導入を前提としている
    5 「社会保障カード」は、「住基カード」と異なり、全国共通の外見・仕様となる
    6 「社会保障カード」は、「住基カード(任意交付)」と異なり、一律交付となる
    7 「社会保障カード」と「健康ITカード」の基本構想は、平成19年度中に決定される
    8 「社会保障カード」の導入時期は、平成23年度を予定している
    9 上記に並行して、「社会保障番号」を「納税者番号」として利用できるか検討を進める

    ふむふむ。だいたい予想通りですが、全体のシナリオが見えてきましたね。

  3. 保険証の気になる話
    保険と年金の気になる話を紹介します。関東ITソフトウエア健康保険組合保険証の使い道なんて病院くらいしか考えてなかった私にとっては驚き。 この保険組合の福利厚生を求めてIT企業以外の企業も続々加入しているという。 この夏の予定

  4. 折角のQRコードシステムもったいない
    sagoです。こちらに。

    登記オンラインの改良案骨子が出ました。まだ非公式ですが。

    http://www.cablenet.ne.jp/~tsj-haishi/
    の「法務省の「不動産オンライン利用促進策」を入手しました。(07.08.11)」
    http://www.cablenet.ne.jp/~tsj-haishi/moj-070810-tsj-jouhou.pdf
    です。

    私としては
    「2 登記識別情報通知書に、登記事項の内容を記載事項とすることを検討する。
    二次元バーコード(登記識別情報および付随情報)を記載することを検討する。」
    が気になるところです。
    二次元バーコードは多分QRコードで充分ではないかと思います。

    ただ耐クローン性(コピーしたものがオンラインでは本物になる)の点で不安がありますので、代理人申請では通知書の原本確認(別途司法書士には意思確認義務などもありますが)、本人申請では公的個人認証による電子署名の必須化などを組み合わせてクリアーするかですね。

    折角作った「保険証へのQRコード」のシステムを、登記識別情報通知書に使えないもんですかね。

    結局半ラインですが、10%は死守したいのでしょう。

  5. QRコードの活用
    sagoさん、こんばんは
    暑い日が続きますね。

    登記オンラインの最新情報ありがとうございます。

    二次元バーコード(QRコード)は、海外の電子政府でも活用されていて、日本でもいくつか事例があります。

    実務では、まだまだ紙が付き物なので、QRコードをうまく使えば行政事務の効率化・迅速化(入力の手間など)に役立ちますね。

    「保険証へのQRコード」システムは、中止になったので、開発・導入も止っているのでは。

    QRコードの活用については、機会があれば別ブログで解説したいと思います。

  6. ICタグが50年持てば
    むたさんありがとうございます。

    登記もICカードや、ICタグの時代なのでしょうが、不動産の場合、50年先も使えるものをと考えて、結局 無難なパスワード型の識別情報になった。

    実際には耐用年数より、耐用回数ということになると50年先使えるICチップもあるはずですが。

    バイオメトリクスが普及すれば、登記専用のものはいらんのではないか、という意見も強いです。

    当面、現行法の登記識別情報をどう使うかで、二次元バーコードが浮上したのでしょう。

    書面申請で法務局側がチェックするのもバーコードの方が効率的です。

    ただ難しいですね。ケータイで簡単に生の識別情報が読み取れてもいけない。暗号化するか。
    車検証のQRコードは暗号化されたものをコードにしてるとか。

    コピーによるるクローン対策には、、見えないバーコードもありますが、これも一長一短です。

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