重点計画-2007に見る電子私書箱のリスク、嬉しいのはITベンダーだけ?
重点計画-2007が決定されました。計画案への意見から、「電子私書箱(仮称)」についても、なんとなく形が見えてきましたので、少し整理しておきたいと思います。
●電子私書箱とは
「電子私書箱(仮称)」は、
・2010年頃の開始を予定するサービスで
・医療機関や保険者等に個別管理されている情報を
・希望する国民が自ら入手・管理できる
ものです。
詳細は未定ですが、
・年金、医療、介護、福祉等に関する個人情報の収集と管理を基礎として
・他分野(民間企業を含む)への2次利用なども検討していく
と考えて良いでしょう。
今後の予定は、
・2007年度末までに、論点整理と基本方針を取りまとめ、サービス開始に向けた工程表を策定する
・2008年度に、電子私書箱の実現に必要となる具体的な仕様を決める
となっています。
●サービスの運営は民間で
電子私書箱サービスは、
・民間事業者や団体等が提供する
・国が個人情報を一元管理することは想定していない
とのことです。
恐らく、政府から認定を受けた民間事業者等がサービスを提供することになるのでしょうね。
●サービスの提供方法
サービスの提供方法については未定ですが、政府が想定しているのは、
・健康ITカード(生体認証機能を備えるICカード等)を使って、自宅のパソコンからインターネット経由で、電子私書箱にアクセスして利用する。
・健康ITカードがあれば、行政や病院の窓口(端末等を設置)でも、電子私書箱を利用できる。
といったところでしょう。
しかし、サービス開始を予定する2010年頃に、自宅のパソコンから高性能ICカードを使ってアクセスするといった手段が一般的になっているとは考えにくく、財政難や人手不足に苦しむ行政や病院の窓口で端末設置等が進むことも現実的ではないので、上記の方法だけでは、まず「使われないサービス」となってしまうでしょう。
サービスを提供するのが民間事業者であれば、
・特定の方法や手段にこだわらず
・利用者の環境やニーズに配慮した複数の手段を提供し
・利用者が選択できる
とするのが良いでしょう。
しかし、政府が民間事業者に対して「特定の方法や手段を義務付ける」ことも考えられるので、予断は許さない状況です。
●電子私書箱と連携するサービス
電子私書箱と連携を予定しているサービスは、
・社会保障カード(仮称:住基ネットとの連携を予定)
・ねんきん定期便
・健康ITカード
などです。今後は、
・電子申告・納税
・電子申請
などとの連携も考えられます。
加えて、民間サービスとの連携(本人の同意を前提として)も進められると予想されます。
電子私書箱で、年金、医療、介護、福祉等に関する個人情報が取り扱われるとなれば、金融機関、保険業界、医療・健康・福祉サービス業界等にとっては、大変に魅力的なサービスとなります。
●電子私書箱のリスク
電子私書箱サービスが、民間事業者により運営されるのであれば、税金が投入されること無く、電子行政サービスの質が向上する。
と考えることもできます。
ところが、電子私書箱サービスのアクセスキー(認証手段)を、政府が指定するICカード等(社会保障カード、健康ITカード)に限定したら、どうなるでしょう。
・ICカードの発行には莫大な税金が使われる(数千億円の規模)
・発行したICカードには、使い道がないと困る
・使い道の一つとして、電子私書箱サービスを民間企業に運営してもらう
・電子私書箱サービスが利用されなくても、政府の責任ではない
・嬉しいのは、国民ではなくてITベンダー(ICカード発行・端末設置、電子私書箱システム開発など)
関連ブログ>>電子政府におけるICカードとPKIの市場(6):まだまだ高価なICカード、導入は慎重に
実は、これと同じようなことが、既に日本の電子政府では行われています。
重点計画-2007の中に、次のような記述があります。
★地方公共団体における公的個人認証に対応した電子申請システムの整備(総務省)
公的個人認証に対応した電子申請システムを、全都道府県においては2008年度までに、全市町村においては2010年度までに整備するよう、必要な支援を行う等その取組を促進する。
公的個人認証の使い道として、自治体に「公的個人認証に対応した電子申請システム」を作らせて、その責任は自治体にあるとする。嬉しいのは、国民でも自治体職員でもなくて、ITベンダーだけ。
これと同じようなシナリオが、電子私書箱サービスから見て取れるのです。
作者は、ICカードや電子証明書の利用、社会保障番号や納税者番号の導入に、反対する立場ではありません。その有効性を確認して、国民が理解・納得できる形で活用するのであれば、大いに賛成するところです。
しかし、「電子私書箱」の内容を知れば知るほど、「これまで電子政府が犯してきた過ちを再び繰り返すことになる」と思わずにはいられないのです。
そうした過ちは、電子政府のブランドを傷つけ、国民からの支持や信頼を失わせるものです。
「電子私書箱」については、今後もチェックしていきたいと思います
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