特許庁の新事務処理システムに見る、これからの電子政府サービスのあり方
特許庁が、業務・システム最適化計画(改訂版)に基づく新事務処理システムの設計・開発に対する意見募集をしています。
ワン・ストップ・ポータルの実現、インタラクティブ申請(申請書作成支援システム)の導入などを進めて、ISDN回線を利用した電子出願システム(パソコン電子出願ソフト:PCT出願含む)については、廃止する方向と。
最適化計画における「理想形(あるべき姿:to be)」とは、今の時点で考えられる理想形であって、「完成形」ではありません。
もっと良い方法があるかもしれませんし、今後の環境変化(法制度、技術など)によっても変わってくるでしょう。
最適化計画を策定することは、問題の発見と認識への第一歩であり、解決方法への模索なのです。
さて、特許庁の業務・システム最適化計画(改訂版)を具体化するのが、今回の「新事務処理システムの設計・開発」です。
今後の電子政府サービスのあり方を考える上で、とても参考になるので、気になる部分を見ていきましょう。
●インタラクティブ申請(申請書作成支援システム)の導入
既に出願している同一案件の申請書類を作成する際に、特許庁のデータベースからその情報を受取り、申請書類に自動転記させる機能です。
民間のオンラインサービスでは、「同じ質問は繰り返さない」「同じ内容を何度も入力させない」は当たり前となっています。アマゾンの「ワンクリック注文」が、代表的な例ですね。
現在の電子申請サービスでは、わざわざ利用者登録をさせておきながら、申請時に改めて名前や住所を入力させるケースもあります。これでは、役所の窓口と同じで、電子化・オンライン化のメリットが生かされていません。
今後の電子申請サービスでは、インタラクティブ申請など、「ホントに使えるカスタマイズ機能」が追加されていくことでしょう。
●特許庁が提供する機能を活用するためのAPIの提供
新事務処理システムにより提供される機能を、民間事業者のサービスや企業・大学等のデータベースに組み込めるように、インタフェースを提供します。
APIの提供は、システムを作ってからだと大変なので、設計・開発の基本方針として「APIの提供」を明記しておくことが大切ですね。
APIの公開については、電子政府の評価指標:技術情報の公開(民との連携によるサービス向上)などで触れましたが、これからの電子政府サービスの必須機能と言えるでしょう。
かなり昔から、電子政府サービスの目指すところとして、
・慣れ親しんだ民間サービスの中で
・行政サービスと意識せずに
・利用することができる
と言ってきたのですが、ようやくそれが現実的となってきたのは嬉しいことです。
また、逆のパターンとして、民間が提供するAPIを、行政サービスやシステムに組み込むことも有効です。
今後、APIを提供するサービスが、民間・行政共に増えてくると、その組み合わせの数だけサービスの可能性も増えてきます。
・ニーズの変化に対応できる柔軟性とスピードを維持しながら
・低価格(または無償で)で使いやすいサービスを実現できる
というのが、今後の電子政府サービスと言えるでしょう。
●データ様式のXML統一化
複数のデータ形式(Xフォーマット、SGML等)が混在している状態を改め、書類のデータ形式をXMLデータフォーマットに統一して一元的に管理します。
データ様式の統一は、業務・システム最適化に欠かせない要素です。
その一方で、国民に提供するデータについては、国民の利便性や利用環境を考慮する必要があります。
インターネット公報では「多様なデータ形式での提供」を心がけ、提供するファイルの種類としてXML、PDFフォーマット等が選択可能になるとしているのは、とても良いことです。
今後の電子政府サービスでは、行政内部での事務処理については共通の言語(データ様式等)が使われ、情報の提供(閲覧)については、利用者の特性を考慮した上で、パソコン、携帯、テレビ、ゲーム機といった様々な選択肢を用意することが必要でしょう。
●データ提供のリアルタイム化
システム構造の簡素化や公報自動編集の浸透等を通じて、再編集に要する期間をなくし、データ提供のリアルタイム化を実施します。
データ提供のリアルタイム化は、「見える化」「公平化」にも繋がります。
行政が長年享受してきた「最新情報を持っていることの優位性や優越感」は、電子政府では不要となります。
以前提案した、申請状況の追跡サービスも同様です。
今後の電子政府サービスでは、政府が保有する情報や内部処理の状況を、国民誰もがリアルタイムで確認できるようになり、行政サービスの向上だけでなく、政府全体の透明性を向上させることが大切です。