宅建業電子申請システムから学ぶ、電子申請の課題と可能性
平成19年9月3日から、国土交通省の「宅建業電子申請システム」が運用を開始しています。外観は『国土交通省オンライン申請システム』に酷似しているので、同じベンダーさんが開発しているのでしょうね。今回は、「宅建業電子申請システム」を通じて、電子申請が抱える課題や今後の可能性を考えてみたいと思います。
●「宅建業」とは
「宅建業」とは「宅地建物取引業」のことで、不動産の売買やその仲介等を行う業者です。俗に言う「不動産業」のことですね。
「宅地建物取引業」は免許制度になっており、国や都道府県から免許を受けないと営業できないことになっています。
関連>>宅地建物取引業の免許について
★作者コメント
「許可」や「免許」などの申請は、処分結果がわかるまでに1ヶ月ぐらいかかるものが多く、手数料・登録免許税なども数万円以上かかります。
ですから、電子申請の利用インセンティブとしては、「手数料等の割引」や「処理時間の短縮」などが有効でしょう。
どちらも、半額(半分)ぐらいになると、申請者にとって魅力的になると思います。数千円の割引、一週間ぐらいの短縮では、あまり効果を期待できないでしょう。
余談ですが、宅地建物取引業者については、無料のオンライン情報提供サービスがあります。シンプルですが、実に便利で使いやすいサービスです。
関連>>宅建業者情報インターネット情報提供システム(東京都都市整備局)
こうした簡易な無料サービスがあれば、「国民による利便性の実感」も高まり、電子政府のイメージも良くなります。法務省の法人・商業登記でも、同様のサービスが望まれます。
●電子申請できる手続
今回の電子申請システムで運用を開始する手続は、
・免許申請事項の変更の届出
・業務を行う場所の届出
・主任者の資格登録簿登録事項の変更登録申請
・主任者の死亡等の届出
となっています。
肝心の「免許申請(新規・更新)」等(下記)への対応は、平成19年11月からの予定です。
・宅地建物取引業の免許(新規、更新、免許換え)
・免許証の書換交付申請
・免許証の再交付申請
・営業保証金供託済の届出
・廃業等の届出
・主任者の登録申請
・主任者の登録移転申請
・宅地建物取引業保証協会の身分得喪の報告等
★作者コメント
利用できる手続は、国民のニーズを優先して、慎重に選ぶ必要があります。
行政側として「オンライン化しやすいから」「業務に支障がなさそうだから」といった理由だけで手続を選んでしまうと、「利用されないリスク」が高くなってしまいます。
新しい電子申請システムを稼動させる際には、「ニーズの高い手続」が使えるまで、運用開始を控えた方が良いでしょう。
利用促進策としては、例えば、
新規に免許を取得する全業者に対して、「免許証」と共に、利用者IDやパスワードを含む「電子申請キット(CD-ROM)」を交付して、
「今後の変更や更新については、インターネットでお願いします。」
とすれば良いでしょう。
これなら、面倒な利用者登録も必要ありませんし、新規事業者にとっては「オンライン電子申請が当たり前」となることでしょう。
この手法は、「会社設立とその後の登記変更手続」などでも使えます。
●国と地方の連携
「宅地建物取引業」は、営業形態によって「国の免許」と「都道府県の免許」に分かれています。
ですから、「宅建業電子申請システム」の運営も、国と地方で協力・連携して行う必要があります。
「宅建業電子申請システム」では、国にも地方にも申請できるので、この意味では「ワンストップサービス」が実現されていると言えます。
しかし、手数料等の電子納付については、対応している都道府県が少ないので、今後の対応が望まれます。
関連>>宅建業電子申請システム:手数料及び登録免許税の納付方法について
★作者コメント
ワンストップサービスは、必ずしも行政が実現しなければいけないわけではありません。
電子申請システムのAPIが無償提供され、サービス間の接続・連携が可能になっていれば、民間企業等でワンストップサービスを実現することも可能です。
欲しい電子行政サービスだけを、普段慣れ親しんだアプリケーションや業務システムに組み込んで使うことができれば、それこそが本当のワンストップサービスと言えるでしょう。
●JRE問題
他の電子申請システムと同様に、「宅建業電子申請システム」も、事前準備としてJREのインストールが必要となっています。
説明ページを見ると、バージョン固定ではなく、最新版に対応しているようです。
関連>>宅建業電子申請システム:JREのダウンロードとインストール
※追記:JREの取得が必要なのは、代理人申請(電子署名が必要な場合)だけで、本人申請(ID・パスワード方式)では不要です。
★作者コメント
「法務省のオンラインサービス改善について」のコメントでも触れましたが、「バージョン固定しないで最新版に対応する方式」などに統一するのが良いでしょう。
※追記:
本人申請(ID・パスワード方式)でJREを不要としたのは、とても良いことです。一般国民にとって、JRE問題は「使われない要因」の一つとなっています。
自治体における「施設予約オンラインサービス」の利用が多いのも、「JRE不要」と無関係ではありません。
これからの電子政府・電子申請サービスでは、「簡単・シンプル・迷わない」の大切さを再確認しましょう。
●申請者の確認(ID・パスワードの併用)
「宅建業電子申請システム」では、事前に利用申込みをして、利用者整理番号・申請提出者IDを取得する必要があります。
申請者の確認は、ID・パスワードで行いますが、代理人申請(行政書士)の場合は、IDに加えて電子署名(電子証明書)が必要となっています。
関連>>宅建業電子申請システム:ステップ1 利用申込・事前準備
★作者コメント
現状を考えた場合、士業等の行政手続に関する専門家を除いて、「電子署名を使わない方法」を導入するのが良いでしょう。電子申告も、この方法により利用件数が増えました。
手続の性質にもよりますが、ほとんどの行政手続は「申請時」に厳格な本人確認を行う必要はありません。許認可や免許の申請では、許可証や免許証の交付時などでも良いわけです。
サービスモデルの例としては
・オンラインで利用申込み
・ID等をオンラインで即時発行
・少なくとも、申し込んだ当日にサービス利用できる
とするのが、「国民が期待するサービスレベル」に合致する「合格ライン」と言えるでしょう。
現行のやり方にこだわらず、最も効率的で実効性のある方法を選択することは、本人確認に限らず、様々な場面で言えることです。
JREのインストールが無いので利用しやすいかも
>●JRE問題
他の電子申請システムと同様に、「宅建業電子申請システム」も、事前準備としてJREのインストールが必要となっています。
< <<<<<<<<<<<<<<<<<<<< JREのインストールは、代理人が代理申請するときのみ代理人側の端末に設置することになります。 申請者本人側の端末にはJREのインストールは不要と言われています。 このあたりが環境整備で利便性があるように思えますね。 いわゆる電子証明書を送付しなくてよろしい方式です。ただし、代理人が手続するときはその代理人を証する電子証明書を送付しろ、というところですね。 国交省の汎用電子申請システムでは、JREのインストールは必須ですが、宅建業電子申請システムは、インストールしなくてよろしい。
電子署名とJRE
イエモリさん、こんにちは
コメントありがとうございます。
電子署名を使わなければ、やっぱりJREは必要ないんですね。
「宅建業電子申請システム」で、ID・パスワード方式について、「JREインストール不要」としたのは、とても良いことで評価したいです。
現状では、
「電子署名がもたらす恩恵」<「電子署名がもたらす不具合・面倒」
「恩恵」を増やすことは難しいので、せめて「不具合・面倒」を減らしていかないことには、「電子署名不採用」の流れは、当分続きそうです。
流れは「電子署名の不採用」です
>「恩恵」を増やすことは難しいので、せめて「不具合・面倒」を減らしていかないことには、「電子署名不採用」の流れは、当分続きそうです。
OSSでも電子署名の不要を打ち出すようですね。ただし、代理手続するものは、電子署名必須らしい。実質は代理申請が多数を占めるのでこのようになるようです。
宅建業電子申請システムは専用システムであって、国交省汎用システムでは今もって電子署名を要します。
こうした電子署名の不要の流れが、益々公的個人電子証明書の取得者が少なくなることに繋がりますね。