情報システムに係る政府調達制度の変遷(2):「安値入札」からの脱却(行政の努力)
『情報システムに係る政府調達制度の変遷(1):安値入札がもたらしたもの』の続きです。今回は、「安値入札」問題後に政府が行ってきた対応について整理したいと思います。
★情報システムに係る政府調達制度の見直しについて
平成14年3月29日 情報システムに係る政府調達府省連絡会議了承
http://www.soumu.go.jp/s-news/2002/020329_6.html
・情報システムに係る政府調達については、近時、極端な安値落札が散見される。
・調達における公正な競争が阻害されている可能性がある。
・適正な価格による質の高い情報システムの調達が行われていない可能性がある。
と認識した上で、各府省が横断的に取り組むべき諸課題についてとりまとめたもの。
その内容は、
1.総合評価落札方式をはじめとする評価方式等の見直し
2.競争入札参加資格審査制度をはじめとする入札参加制度等の見直し
3.調達管理の適正化
上記内容は、現在の政府調達制度に至るまでに、少しずつ実現・実行されており、今後の重要な課題も含んでいると言えるでしょう。
★情報システムの調達に係る総合評価落札方式の標準ガイド
平成14年7月12日 [調達関係省庁申合せ]
http://www.kantei.go.jp/jp/kanbou/15tyoutatu/huzokusiryou/h2-15.html
調達機関が総合評価落札方式により調達する場合の事務処理の効率化等に資するため、財務大臣と協議を整えた各省各庁の長の定めとともに、運用上の基本的な事項を手引きとしてとりまとめたもの。
前述の政府調達制度の見直しを受けて、実際に「総合評価落札方式」を導入する際の手引きです。
「総合評価落札方式」というのは、価格だけに頼らず、技術力や管理能力なども評価することで、極端な安値落札を防止すると共に、情報システムの品質を向上させるのに有効とされています。
★情報システムに係る政府調達へのSLA導入ガイドライン
平成16年3月 経済産業省、独立行政法人情報処理推進機構
http://www.meti.go.jp/kohosys/press/0005140/
http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/tyoutatu/sla-guideline.pdf
前述の「政府調達制度の見直し」にも記述されているSLAを導入する際の手引きとして。
SLA(Service Level Agreement:サービス・レベル・アグリーメント)は、「サービス品質に関する合意(サービス品質保証契約)のことです。
情報システムやITサービスの品質については、実際に使ってみなければわからないことが多く、納品の後で「期待していたものと違う(政府)」「そんな機能が必要とは聞いていない(ベンダー)」といったトラブルが発生することがあります。
そこで、あらかじめサービスの質を定量的に評価する基準を設けて、「お互いに納得できる品質」を具体的な数値にして決めておきましょう。というのが、このSLAです。
例えば、「2006年(平成18年)度 人事院ネットワーク最適化実施状況報告書」では、「サービス指標」として「稼働率」(単位:%)【計算式:「実稼働時間」/「予定稼働時間」×100】が定められており、
目標値:99.5
実績値:99.5
といった結果が出ています。
電子申請サービスなどでは、「稼働率」以外にも、「利用率」や「利用者満足度」などを指標にしても良いでしょう。
関連>>府省共通業務・システム等及び個別府省業務・システムの平成18年度最適化実施状況報告書
★政府調達事例データベース
http://cyoutatujirei.e-gov.go.jp/
1,600万円以上の調達額の情報システムに係る調達案件(原則として平成16年4月1日以降)の情報データベース。狙いは、政府調達の透明性を強化、官民における情報共有など。
情報公開と情報共有は、より良い電子政府を作っていく上で、とっても重要です。データ保管期間が「契約日から3年間」となっていますが、最低でも10年は保存して欲しいですね。掲載情報が少ないのも難点。今後は、仕様等の詳細情報も提供される予定。
作者からの提案として、次の2点を挙げておきます。
1)追跡機能
評価情報、現在の運用状況、移行先のシステムなどを参照することができ、落札後のシステム開発・運用等の状況について、国民の誰もがチェックできるようにします。
2)API公開による調達・入札支援
「政府の調達計画書等作成ツール」等と連携すれば、過去の成功&失敗事例を参考にしながら、調達計画書等の作成やプロジェクト管理ができるようになります。
「ベンダー業務システム」と連携すれば、入札参加に必要な各種資料の作成が容易になり、よりポイントを押さえた提案等が可能になるでしょう。
関連>>国土交通省ネガティブ情報等検索システム|「情報システムに係る政府調達制度の見直しについて」のフォローアップ調査結果(平成16年度における実施状況)府省別調査結果
★「情報システムに係る政府調達の基本指針」の公表
平成19年3月1日 総務省行政管理局行政情報システム企画課
http://www.soumu.go.jp/s-news/2007/070301_5.html
「重点計画-2006」や「電子政府推進計画」に基づいて策定された政府調達の基本指針。「競争参加機会の拡充」や「分離・分割調達の促進」などが盛り込まれています。同年7月1日から適用開始となりました。
基本指針では、競争性・透明性・公平性・計画性の向上、システムの透明性・柔軟性の向上などを目指し、
1 大規模システムの分離調達
2 調達計画書の作成・公表を義務付け
3 調達仕様書の明確化・オープン標準の優先
4 入札制限の設定
5 契約の明確化
6 指針の実効性確保のための措置
といった内容になっています。
関連ブログ>>「情報システムに係る政府調達の基本指針」の公表
さらに、この基本指針に基づき、次のような実務手引書も作成されました。
★「情報システムに係る政府調達の基本指針 実務手引書」(第二版)
平成19年9月19日 総務省行政管理局行政情報システム企画課
http://www.soumu.go.jp/s-news/2007/070919_2.html
充実した内容に仕上がっていますが、手引書を配布しても、使ってもらえなければ意味がありません。
作者からの提案としては、
・政府内で共通の「政府調達計画書等作成ツール」等を作る
・ヘルプで実務手引書の該当部分を参照できるようにする
・作成した調達計画書は、自動登録されて、みんなで情報共有できる
・電子申請のように、質問形式で回答していくと、自動的に出来上がる
・以前作成された類似調達を使い、一部を修正していくと出来上がる
こうした機能を盛り込んだサービスを、SaaS形式で実現すれば、かなりの効果が見込めるでしょう。
関連ブログ>>特許庁の新事務処理システムに見る、これからの電子政府サービスのあり方
その他の資料として、
★「情報システムの信頼性向上のための取引慣行・契約に関する研究会」最終報告書”~情報システム・モデル取引・契約書~”の公表について
平成19年4月13日 経済産業省商務情報政策局
http://www.meti.go.jp/press/20070413002/20070413002.html
★「情報システムに係る相互運用性フレームワーク」の公表について
平成19年6月29日 経済産業省商務情報政策局
http://www.meti.go.jp/press/20070629014/20070629014.html
などがあります。
契約を見直すことで、「情報システムや業務のライフサイクルに従って、長期的な視点で調達案件を考える」ことができるようになりますし、
情報システムの相互運用性を考慮することで、「行政間の縦割り」「ベンダーロックイン」などの防止する効果も期待できます。
なお、独立行政法人についても、 国と同様な考え方で調達改革が進められています。
★独立行政法人等の業務・システム最適化実現方策
2005年(平成17年)6月29日 各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議決定
http://www.soumu.go.jp/gyoukan/kanri/a_01-02_04.html
この中で、独立行政法人等における業務・システムの最適化を実現するために、
『システムの調達にあたっては、原則、競争入札とするとともに、ハードウェアとソフトウェアのアンバンドル化(分離調達)、オープンソースソフトウェアの活用等について検討すること。 』
が要請されています。
関連>>独立行政法人等における最適化対象業務・システム一覧(PDF)|電子行政推進国・独立行政法人等協議会
最後に、地方自治体における全体的な取組みを紹介しておきましょう。
★情報システム調達モデル研究会~地方自治体における調達改革のあり方~
http://www.nmda.or.jp/choutatsumodel/
2003年(平成15年)より活動。実績として、「情報システム調達ガイドライン」の策定・実導入、業績測定参照モデル(PRM)の実証評価の実施などがあります。
以上の通り、「安値入札」あるいは「ベンダーロックイン」などから脱却するために、様々な形で行政の努力(政府調達の改革)が行われてきました。
次回は、これら行政が進めてきた取組みが、いったい「どの程度の効果があったのか」を実例を参照しながら見ていきたいと思います。