情報システムに係る政府調達制度の変遷(4):電子政府ベンダーのあり方を考える

情報システムに係る政府調達制度の変遷(3):調達改革の効果を検証する』の続きです。本シリーズの最終回として、今後の電子政府・電子自治体におけるベンダーのあり方について考えてみたいと思います。

日本で電子政府ベンダーと言えば、NTTデータ日本電気富士通日立製作所が、まず挙げられでしょう。

他にも、IBM沖電気日本ユニシスアクセンチュア三菱総研野村総研など、外資系からIT老舗企業やシンクタンクまで様々です。

府省共通業務・システム等及び個別府省業務・システムの平成18年度最適化実施状況報告書」を見ても、落札業者として多様な企業の名前を見ることができます。

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●政府の仕事は「おいしい」のか?

政府の仕事は、ベンダーにとって「ぼろい商売」で楽して儲けられるといった誤解もありますが、実際はそんな甘いものではありません。

もちろん、支払いは確実だし、「囲い込み」により、随意契約で何年にも渡って投資以上の利益を回収できるといった「旨み」もありました。

しかし、これまで見てきたように政府の調達制度やシステム開発・運用手法が変わっていく中で、これまでのような「旨み」は減り、その一方でリスクが大きくなってきています。

ベンダーの中でも、民間企業や金融機関を相手にしている部門からすれば、「政府相手の仕事は、苦労が多い割にはあまり儲からない」といった声も聞かれます。

●電子政府ベンダーのあり方は、リスクマネジメントの視点で

情報システムに係る政府調達制度の変遷(1):安値入札がもたらしたもの』で、安値入札のリスクとして

・「囲い込み」に安心して、企業努力を怠り、競争力や技術力が低下する。
・「囲い込み」を維持できなくなり、ある時期を境にして利益が激減する。
・社員の士気やモラルが低下する。
・顧客の満足度が低下し、信頼関係を維持できなくなる。

を挙げました。電子政府ベンダーのあり方は、「上記リスクを回避するためには?」と考えると良いでしょう。

作者の提案は、次の3つです。

1 行政依存からの脱却
2 国民を意識した顧客満足度の向上
3 社会的責任の重視

●行政依存からの脱却

政府の仕事から、今までのような旨みが減りリスクが増えるわけですから、依存する割合を減らすことが必要となります。

例えば、売上(または利益)の割合が、政府6:政府以外4であれば、5:5か4:6ぐらいに移行していきます。

電子政府では、しばらくは経費削減の傾向が続きますので、「旨み」はまだまだ減る可能性があります。大きな痛手を受ける前に、リスク分散しておく方が良いでしょう。

民間への比重を大きくすることは、実は、政府の仕事を受ける上で、プラスの面も多いのです。

なぜなら、市場化テストなど行政の仕事を民へ委託するケースが増え、民の仕事のやり方を行政の仕事に取り入れる流れがあるからです。つまり、民の仕事で実績を作っておけば、それを行政の仕事にも生かせるのです。

例えば、ネットオークションで成功したヤフーは、そのノウハウを生かして、政府の公売や公金収納のサービスを提供し活用されています。

SaaSの老舗として有名なセールスフォースドットコムは、民間企業だけでなくNPOなどにもサービスを提供し、日本郵政の一部システムにも利用されています。今後は、政府系の業務にも活用されるかもしれません。

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●国民を意識した顧客満足度の向上

政府の情報システムの投資についても、事前や事後のチェックが厳しくなってきています。無駄と思われる投資は少なくなり、投資に対する効果が求められるわけですから、ベンダーの仕事についても、今まで以上に量より質が求められてきます。

そうした状況下においては、
・システム構築+行政改革・業務改革・財務改革の提案
・どんぶり勘定からの脱却(適正で明朗な見積もり計算)
・顧客満足度の向上

などが有効でしょう。

この中で、作者が注意して欲しいのが「顧客満足度」です。

ベンダーにとって、直接の顧客は「行政」ですが、その後ろには必ず国民や市民が存在します。それは、受注する仕事がバックオフィスであろうとフロント業務であろうと関係ありません。なぜなら、どちらも税金が使われるからです。

電子政府が目指すのは、「より良い社会」「住みやすい社会」「個人や企業の可能性が広がる社会」などの実現です。ですから、「顧客満足度」については、行政だけでなく常に「国民」を、そして「国民が生活する社会」を意識することが大切です。

電子政府ベンダーには、国民にどれだけの価値を提供できたか、社会にどれだけ貢献できたかを、システム構築・運用を通じて考える義務があるのです。

●社会的責任の重視

政府の業務は、多くの国民に関わる公共性の高い仕事です。ですから、政府から仕事を受注するにあたっては、法的な責任(契約上の責任)だけでなく、社会的な責任を負うことになります。

もし、その覚悟が無いのであれば、厳しいようですが「政府の仕事を受ける資格は無い」と言って良いでしょう。

例えば、年金や医療など公共性の高いシステムを開発・運用したとしましょう。

何か問題が発生し、多くの国民が被害を受けた場合、契約上の責任については「政府の指示に従ってシステムを開発した」とすれば良いでしょう。

しかし、それだけでは、社会的な責任を果たしたことになりません。

第一義的な責任が政府にあり、問題の原因がシステムの不具合によるものでなくても、システムを開発したベンダーの社会的な責任は、決してなくならないのです。

先にも触れましたが、ベンダーの顧客は国民です。

上記の例で言えば、国民が被害を受けることがないように行政に提言を続けるといった最大限の努力を行い、問題が発生した場合は、被害を最小限とするための解決策を提案し実行して、初めて社会的な責任を果たしたと言えるでしょう。自らの行動で示すしかないのですね。

社会的な責任は、必ずしもお金で解決できるわけではありませんし、ベンダーにとって直接的なお金の損害をもたらすわけでもありません。

しかし、社会的な責任を果たさないベンダーには、「国民や行政からの不信感」といったお金では補えない損害をもたらすことでしょう。

なお、「年金記録問題検証委員会報告(平成19年10月31日公表)」の「IV 年金記録問題発生の責任の所在」には、次のような記述があります。

『システム開発の各段階で、不備データの存在については、システム開発事業者も社会保険庁も認識していた。その処理については社会保険庁とシステム開発事業者がともに記録を全く保存していないことは、この問題を両者が軽視していたことの表れであり、その責任は免れない。』

電子政府は、政府やベンダーにとって、自身の仕事の価値を見直す機会でもあります。その機会を生かすか殺すか。作者だったら、生かす方を選ぶでしょう。

“情報システムに係る政府調達制度の変遷(4):電子政府ベンダーのあり方を考える” に2件のコメントがあります

  1. ヤフーでの公売などについて
    むたさんの、
    >例えば、ネットオークションで成功したヤフーは、そのノウハウを生かして、政府の公売や公金収納のサービスを提供し活用されています。

    今月1日から運用開始の、次。
    http://koukan.yahoo.co.jp/wanted
    指名手配情報の提供サービスです。

    これらサービスも独自で運営すると実際のところ大変なので、こうしたヤフーを利用することになるのでしょうね。

    なお、先般のセミナーを受講したところでは、
    ヤフー公売を利用する自治体は403団体となっているようです。全自治体が利用するようヤフーとしても営業をかけている。

  2. 指名手配情報も
    イエモリさん、こんばんは。
    いつも情報ありがとうございます。

    Yahoo!なんでも交換 – 「犯人捜しています」特集
    http://koukan.yahoo.co.jp/wanted
    は知りませんでした。警視庁のサイトに掲載するより、効果も高そうですね。

    ヤフーは、政治サイトも提供しており、私も選挙の時にはとても重宝しています。

    Yahoo!みんなの政治から学ぶ
    http://blog.goo.ne.jp/egovblog/e/617854e193295350aded39781de8e38d
    グーグル・USガバメント・サーチ
    http://blog.goo.ne.jp/egovblog/e/3d2e33d3cc3d959e83b0f0628a2da2dc

    ヤフー公売では、想定価格を上回る落札金額も多く、その効果を即時に実感できるので、これを利用しない手はないですね。

    ヤフー以外では、自治体におけるグーグルマップの利用も増えています。今後は、公共施設の利用予約といったオンライン申請システムとの連携も期待できるでしょう。

    ・無駄なシステムを持たないで
    ・民間のサービスを必要なときに必要な分だけ借りる
    という手法は、
    ・国民ニーズの変化や多様化
    ・技術進歩
    ・標準化、最適化
    にも対応しやすいので、今後ますます増えてくると思います。

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