「電子私書箱」に関する検討会が発足、新たな「電子政府バブル」を生まないためには
「電子私書箱(仮称)による社会保障サービス等のIT化に関する検討会」が始まり、第1回会合(平成19年10月29日)の配布資料が公開されています。
●「電子私書箱」とは
「電子私書箱」とは、言葉どおりに解釈すると、国民が電子的に(オンラインで)役所からの通知等を受取る手段を提供するものです。
民間サービスでも、電話会社、銀行、証券会社などが、毎月の利用明細や料金請求書などをインターネット上で閲覧・確認できるようにしていますが、それの行政版と考えて良いでしょう。
検討会は発足したばかりですが、政府が現在検討している「社会保障カード」とセットで、「重点計画-2007」等を通じてかなり以前から考えられてきたので、すでに基本的な考え方や骨子は固まりつつあります。
●「私書箱」から「個人情報の総合管理ツール」へ
電子政府では、「オンライン申請」などの「国民から行政への情報伝達・発信」を「上り」と言うことがあります。
それに対して、「行政から国民への情報伝達・発信」を「下り」と言います。
最近、社会保険庁が運用を開始した「ねんきん定期便」は、まさに「下り」の代表例ですね。
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現在の電子政府において、利用は少ないものの「上り」のオンライン化は進んでいます。しかし、「下り」については電子化・オンライン化が進んでおらず、封書やハガキ(シール・綴込み式)といった郵送に頼っています。
そこで、考えられたのが「電子私書箱」というわけです。
ところが、実際には、単なる通知等の受取手段である「電子私書箱」と言うよりは、社会保障、医療、資産といった重要な(センシティブな)「個人情報を総合的に管理できる仕組み」を作ろうとしていることが、政府の資料からは伺えます。
つまり、『重点計画-2007に見る電子私書箱のリスク、嬉しいのはITベンダーだけ?』
で書いた内容を引用すれば、
「電子私書箱」とは
・2010年頃の開始を予定するサービスで
・医療機関や保険者等に個別管理されている情報を
・希望する国民が自ら入手・管理できる
ものであり、
・年金、医療、介護、福祉等に関する個人情報の収集と管理を基礎として
・他分野(民間企業を含む)への2次利用なども検討していく
ということになります。
●大掛かりな仕組みより、まずは単純なサービスから
政府の構想や具体的イメージ(ITベンダーが考えたものと思いますが)は、かなり大掛かりで、いかにもお金がかかりそうです。
こうしたプロジェクトが成功する可能性は非常に少なく、現に多くの電子政府プロジェクトが失敗に終わって(あるいは「負の遺産」を抱えて動けなくなっている)います。
それよりも、既存の民間サービスを活用して(間借りして)、単純な通知の受取・閲覧といったサービスから初めて、その利用状況を見ながら、少しずつ拡大していくべきでしょう。
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「電子私書箱」は、「社会保障カード」と共に、新たな「電子政府バブル」を生み出す可能性があります、
なぜなら、現在の構想がそのまま実行されれば、何千億円とった規模の事業になるからです。
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まあ、お金があるところには、いろんな人や企業が集まってきて、中には良からぬ考えを持った人たちもいるわけで
「電子私書箱」が、そうした負の力に翻弄されることの無いように、また、国民の税金が無駄に使われることのないように、作者もしっかりチェックしていきたいと思いますので、皆さまのご協力をお願いいたします