第3回関東電子政府推進員協議会(3):各士業におけるオンライン申請への取組(税理士、司法書士)
『第3回関東電子政府推進員協議会(2):オンライン申請の課題と士業へのアプローチ』の続きです。今回は、各士業における取組状況や今後の展開を考えてみたいと思います。
●税理士における取組み
税理士による電子申告の利用は、今年から来年にかけて、引き続き増えていく傾向にあります。
その理由としては、以前ブログでもお知らせしましたが、「申告者本人(依頼者)の電子署名の省略」が大きく貢献しています。
関連>>e-TaxなどのITを活用した納税者利便性の向上(国税庁)
来年には、「電子申告における第三者作成書類の添付省略」が始まりますので、更なる利用拡大が予想できます。
関連ブログ>>電子申請のインセンティブ:電子申請・電子申告による税額控除と添付書類の省略
ただし、税理士の間でも、「利用する」と「利用しない」に分かれており、税理士会員全体の利用率は(良くても)50%前後で頭打ちになる可能性があります。
また、「国税電子申告の利用率50%」という目標については、更に厳しい状況と言えます。
なぜなら、電子申告が対象とする国税申告手続(所得税、法人税、消費税)の大多数は、個人による本人申告が占めているからです。
つまり、いくら税理士の電子申告利用が増えても、税理士の関与度が少ない個人(個人事業主、年金生活者、フリーターなど)の利用が増えない限り、「電子申告の利用率50%」という目標には届かないのですね。
今後の電子申告においては、税理士の利用を引続き拡大すると共に、個人向けの電子申告サービスを強化することが重要と言えるでしょう。
ちなみに、来年から、個人が電子証明書を使って電子申告した場合、最高で5,000円の税額控除(1回限り)がありますが、
・住基カードと電子証明書の取得:1000円(市町村役場の窓口で即日~数日かかる)
・ICカードリーダー:約3,500円(一番安いもので。ネットで注文可能)
となっており、実費だけでほとんど5000円が消えてしまいます。さらに、利用者登録、アプリケーションの取得とインストールといった手間を考えると、電子政府コンサルタントとしては、とてもオススメできません。
せめて、1万円ぐらいの控除だったら良いのですが。。
関連>>公的個人認証サービス対応ICカードリーダライタ(NTT Com)
●司法書士における取組み
司法書士によるオンライン登記申請については、ほとんど進んでいないと言って良いでしょう。
なにしろ、不動産登記のオンライン申請は、利用率が0.02%(完全オンラインは0.01%)となっているのですから。。
それに対して、商業法人登記のオンライン申請は約3.3%の利用率となっており、やはり低迷していますが、利用推進の施策次第では向上が期待できます。
関連ブログ>>登記オンライン申請の作り方と推進策を考える
また、登記情報の証明書交付について、「実質的なオンライン件数は、政府が公表するものよりずっと少ない」ことが、司法書士からも指摘されていました。
登記情報のインターネット閲覧サービスについても、外資系ファンド企業や会社情報調査サービス企業等が大量に利用しているらしく、一般の利用は全体の3割ぐらいになるようです。
この点については、以前ブログでも書いたとおり作者も同じ意見です。現在、法務省に対して、せめて「オンライン件数の内訳を公表してください」とお願いしているところです。
関連ブログ>>オンライン利用件数の水増しを防ぐ、「利用件数」の定義を明確にするべき|オンライン件数の法的根拠を考える、行政間のオンライン照会は対象外?
不動産登記のオンライン申請に関して、法務省が予定(検討)する改善策は、
・登録免許税の税額控除(最高で5,000円)
・別送方式の導入(添付書類の原本を窓口に提出)
・登記識別情報に関する証明について、資格者代理人の職務上請求を認める
・登記識別情報通知書の窓口・郵送交付
などがありますが、どんどん複雑化していくだけで、ちっとも便利になっていないような。。
これに対する司法書士からの提言として、
・行政間でオンライン照会できるようにして、添付書類を不要とする
・資格者による調査確認等を活用して、添付書類を大幅に省略する
・暗証番号識別制度の廃止
・資格者による本人確認情報の活用
・システムの大幅な見直し、トレーニングシステムの構築
・利用したいと思うインセンティブの付与
などが挙がっていました。
「オンライン照会」や「添付書類の省略(電子化ではない)」については、作者も大いに賛成するところです。
「システムの大幅な見直し」については、司法書士のためだけに政府がシステムを構築する必要はないでしょう(と言うか、してはいけません)。以前、ブログでも書いたとおり、
「士業の意見を受け入れることで、行政側のシステムが複雑化・肥大化してしまう」危険があるので、行政側のシステムは、本人確認やデータの受付・処理など、できるだけシンプル・低価格・オープンなもので良いのです。
行政が苦手な「サービス機能」については、API等の公開やテスト環境の提供により、士業向けにサービス提供する民間ソフトウェアベンダーの力を活用しましょう。
また、本ブログへのコメントに見られるように、士業以外の利用者(本人、代理人)によるオンライン申請の利用についても並行して検討しておかないと、利用率は頭打ちになってしまうでしょう。
次回は、社会保険労務士と行政書士の取組みについて解説したいと思います。
電子公証サービスの利用件数
むたさんの、
>それに対して、商業法人登記のオンライン申請は約3.3%の利用率となっており、やはり低迷していますが、利用推進の施策次第では向上が期待できます。
関連情報として、先般、法務省に行政文書公開請求してみました。対象文書は、各法務局別の電子公証サービスの利用件数です。簡単に言えば、法務省オンライン申請システムを経由しての、電子定款認証等の嘱託件数のことです。
これの利用件数が予想外、想定以上の数値となっている。
東京法務局管内では、9月の実績は912件で全国実績は3292件となっています。
単純計算すると年間では、39600件あたりを前後する数となりましょう。
来年度は、その倍あたりの件数となるのではないか。
国民は賢い判断を下す
イエモリさん、こんばんは。
貴重な情報ありがとうございます。
電子定款認証に対応する公証役場と行政書士が増えましたので、士業経由で定款認証する場合は、電子定款が当たり前になりつつありますね。
もう少し敷居を下げれば(事前準備を簡素化すれば)、本人申請による利用も増えることでしょう。
電子公証・電子定款のカラクリ(2):オンライン化でどうなる?
http://blog.goo.ne.jp/egovblog/e/a509cb6ea180109ffcd1c9ffc502d6b7
新しい電子公証制度(平成19年4月1日から):窓口一本化の危うさも露見
http://blog.goo.ne.jp/egovblog/e/216f6742c4d6ff3044249e05e0b8a6d0
それにしても、年間4万件は大きいです。登記事項証明書のオンライン請求と共に、法務省オンライン申請システムの利用率向上に大きく寄与しますね。
オンライン申請は、利用者にとって確実なメリットが、多少の面倒があっても利用されると。
国民は政府が考えているよりはずっと賢くて、冷静かつ直感的にオンライン申請を見ているんですよね。割に合うか合わないか(使えるか使えないか)を、しっかり見極めてから利用しています。
交換システムもオンライン利用としてカウント
むたさんの、
>この点については、以前ブログでも書いたとおり作者も同じ意見です。現在、法務省に対して、せめて「オンライン件数の内訳を公表してください」とお願いしているところです。
別ブログで、登記事項証明書オンライン請求利用件数に交換システム利用件数を含めるのはいかがか、という議論がありました。その根拠の一つとして「交換システム」はオンラインでやっているという実感が利用者に無いという点でした。
個人的には、そこまでの実感を問う必要もないと思っています。交換システムはそもそもオンライン申請を前提に作られていると。
ところで、オンラインによる登記事項証明書交付請求には「他管轄請求」というのがあります。これが交換システム整備された前提でのシステムです。既に法的にも整備され実施されています。
ということで、交換システム利用件数をオンライン利用件数に含めても特に問題は無いというのが私の説です。
国民に情報開示を
イエモリさん、おはようございます。
コメントありがとうございます。
たくさんのお金をかけて、行政専用の情報ネットワークを作りまくってきたのですから、「交換システム」をオンライン件数に数えたい気持ちはわかります。
はっきり言って、国民にとってはオンライン件数など、どうでも良いことです。全く関心が無いと言って良いでしょう。
「オンライン件数だ、利用率だ」と言っているのは、私のような一部の国民と一部の行政職員だけです。
ですから、オンライン件数は、もう行政が好きなように(都合の良いように)解釈して、自己申告で「こんなに増やしました」としていれば良いでしょう。評価指標としては、他にも色々とあるわけですから。。
ただし、内訳や数え方の基準などを公表しないのは「ダメ」ですね。積極的に自ら公表はしなくても、「公表してください」と言われたら公表しないと。この点は、電子政府コンサルタントとしても評価委員としても、はっきり主張したいところです。
ちなみに、下記の情報は、何のプレスリリースも無いまま、こっそり訂正されています。
平成18年度における行政手続オンライン化等の状況(PDF)
http://www.e-gov.go.jp/doc/20070803doc.pdf
「Ⅱ 独立行政法人等が扱う手続」
申請・届出等手続のオンライン利用状況(17年度)
こういうことがあるからこそ、きちんと内訳を公開する必要があるのです。
指標、指数は時として社会情勢を写す鏡
むたさんの、
>はっきり言って、国民にとってはオンライン件数など、どうでも良いことです。全く関心が無いと言って良いでしょう。
「オンライン件数だ、利用率だ」と言っているのは、私のような一部の国民と一部の行政職員だけです。
まぁ、それを言い出したら国民にとってオンライン申請なんてどうでもいい話になっちゃうんですけどね。
個人的には、この利用率という数値はインパクトがあると思ってます。
「え? なんとコンマ、コンマの3パーセントなんか?」とわけも分からなくても数値のみに驚いたりで。
立場立場でその数値に対しての思い入れもでてきますからね。
どうでもいいことなんですが、数値というのは怖いですよね。
近いうちに、電子政府・電子自治体関連での利用率、利用件数という数値が世情を賑わすことになると見ています。
お金と一緒なら
イエモリさん、おはようございます。
コメントありがとうございます。
利用率や利用件数だけではインパクトに欠けますが、「金額」と一緒に出されるとニュース記事にしやすいですね。
中止になったパスポート申請と同じように、現在調査中の「一件あたりいくら」が、各種オンラインシステムごとに明らかになれば、国民の関心をひくことでしょう。
システムごとなら、登記事項証明についても「交換システム」として計算されるので、今より正当な評価を受けられるはずですし、手続ごとの利用件数とクロス集計すれば、より詳しい分析もできるはずです。
比較検討で自己評価を高めるPRが始まる
むたさんの、
>
利用率や利用件数だけではインパクトに欠けますが、「金額」と一緒に出されるとニュース記事にしやすいですね。
それもそうですが。。。。
利用率、利用件数の各申請後との比較要素が今後大きなウエートを占めます。今のところ、どの申請システムも低迷しているので、表だって比較しないが。電子申告、OSS,登記、社会保険等々。
来年あたり、OSSが他の追随を許さない突出した利用率を示すことになる。50パーセントでも達成すれば、
その比較として他の申請物の低率が浮き上がってくるんです。
OSS所管も、この違いを前面に打ち出すのは間違いない。
「低率なところは廃止し、高率のところは残そう」との社会的認識を醸成するだろう。
低率のターゲットとなるのは、言わずとしれた登記システムとなる。(そのような想定)
このようになるのでは? 利用率の活かしかた。
費用対効果で廃止が決まる
イエモリさん、こんばんは。
コメントありがとうございます。
利用率・利用件数は、各手続間の比較よりは、各年度の目標達成率や伸び率などで判断されると思います。
OSSの利用が伸びたとしても、他の手続とは利用環境が異なりますので、単純な比較はオススメできません。もちろん、マスコミ的には面白おかしく取り上げるかもしれませんが。。
廃止については、利用率よりも、費用対効果で決まってくるでしょう。パスポート電子申請では、1冊あたり1600万円ものコストがかかっていたことで、財務省から指導があり停止となったように。
パスポート電子申請から学ぶ、電子政府サービスの引き際
http://blog.goo.ne.jp/egovblog/e/9d596ccbf35a4d2813751f349b5f65b5
「オンライン登記」は、依然として厳しい状況ですが、法務省のオンライン申請システム自体は、「電子定款認証」や「登記事項証明書オンライン請求」といった優良コンテンツを抱えているので、一件当たりの費用もそれほど割高ではなく、評価は高くなると思います。
国民の直感は正鵠を得る、射る
むたさんの、
>OSSの利用が伸びたとしても、他の手続とは利用環境が異なりますので、単純な比較はオススメできません。もちろん、マスコミ的には面白おかしく取り上げるかもしれませんが。。
直感的に国民は評価するところもあります。意外とこの直感が正鵠を得ている事が多い。
国民は評価委員じゃないので、このあたり直感でよろしいかと思う。
>廃止については、利用率よりも、費用対効果で決まってくるでしょう。パスポート電子申請では、1冊あたり1600万円ものコストがかかっていたことで、財務省から指導があり停止となったように。
費用対効果計算にも、利用率があったらばこそなんです。利用件数によるのだ。
外務省としては、今後も利用促進の施策が見いだせないところで、これ以上の運用は出来ないとして「中止」したのではないか。
ということで、こうした比較検討も大事ですが。
不動産オンライン登記の利用件数、利用率が高まる促進策が見いだしているのか、、、、?