第3回関東電子政府推進員協議会(4):士業のオンライン申請への取組(社会保険労務士、行政書士)

第3回関東電子政府推進員協議会(3):各士業におけるオンライン申請への取組(税理士、司法書士)』の続きです。今回は、社会保険労務士と行政書士の取組みを見てみましょう。

●社会保険労務士における取組み

社会保険労務士が主に利用する電子申請システムは、
厚生労働省 電子申請・届出システム
労働保険適用徴収・電子申請
の二つです。「厚生労働省 電子申請・届出システム」については、平成20年2月1日(金)から電子政府の総合窓口(e-Gov)に移行されます。「労働保険適用徴収・電子申請」も、アナウンスは出ていませんが、確か統合される予定だったかと。

社会保険・労働保険に関する手続のオンライン申請は、利用率が1パーセント未満とダントツで低くなっており、電子政府評価委員会でも問題になっているところです。

協議会における社会保険労務士からの発表でも、昨年とあまり状況が変わっておらず、年度目標に全く届かない旨の報告がありました。

また、多少の利用がある手続についても、特定の社会保険労務士によるものが中心となっており、裾野が広がっていないとのこと。

そうしたオンライン申請を利用する社会保険労務士も、格段のメリットを感じているわけではなく、推進する立場として半ば仕方なく利用しているケースも多いようです。

ただし、作者の知る限りでは、「労働保険適用徴収」のオンライン申請等で、利用メリット(役所に行かなくて済む)を実感している社会保険労務士もいるので、この辺りは詳細な調査が必要と思います。

恐らくは、補助者を余り使わずに「個人事務所(特に若手でインターネットを使うことに抵抗の無い世代)」でやっている社会保険労務士の方が、オンライン申請のメリットを実感しやすいのでしょう。

なぜなら、個人事務所の場合、社会保険労務士自身が役所へ出向く必要があるため、オンライン申請で役所に行かなくて済むだけでも、とても助かるからです。
また、事務処理についても大規模なシステムを持っておらず柔軟に対応できるため、電子申請を導入しやすいという強みもあります。

これが、大規模な事務所になると、補助者が毎日のように役所へ行くので、一部をオンライン申請するよりは、まとめて紙で申請・届出をする方が合理的なのですね。
また、『紙申請』を前提に電子化・合理化・最適化された業務フローが既に確立しているので、電子申請を導入することで、かなりの費用や手間が発生したり、業務に支障を来たすこともあるでしょう。

厚生労働省も、「社会保険労務士」という単純な括りで利用推進せずに、「どのような社会保険労務士」が利用してくれるのか、きちんと調査・分析しないと、いつまで経っても利用は進まないでしょう。

もう一つ、社会保険オンライン申請の問題点を挙げておきましょう。それは、事業主電子署名の省略を目的として導入されたID・パスワード方式(包括委任状方式)です。

税理士による電子申告では、税理士が電子署名を付与することで、依頼者(本人)の電子署名が不要となる措置が取られ、これが電子申告の利用率拡大に寄与しています。

ところが、社会保険オンライン申請の場合、事業主の電子署名は省略されたものの、代わりのID・パスワード方式が大変に複雑で、大きな事務負担となっているのです。

いちおう、社会保険と雇用保険のID・パスワードが統一されることにはなっていますが、根本的な見直しがない限り、利用者の作業負担は大きいままとなります。

関連>>包括委任状方式による社会保険の手続きの概要共通ID・パスワード実施について

こうした問題は、利用者の業務フローを行政側が考慮していないことを意味しています。少しでも利用者の業務フローを見ていれば、ここまで使いづらい仕組みにはならないはずです。

オンライン申請を利用した場合の「社労士や企業の業務フロー」を精査した上で、改善策を講じることが必要です。

関連ブログ>>電子政府サービスの測定:アンケートでは不十分、実際の行動を測定しよう

●行政書士における取組み

最後に、行政書士における取組みを紹介しておきましょう。その特徴として、

・業務範囲が多岐にわたる
・主要業務は都道府県を経由する手続が多い
・主要業務のオンライン申請が稼動していない

などが挙げられます。その一方で、

・電子証明書の費用対効果が高い
・依頼者のニーズでオンライン申請を利用している

といった特徴もあります。

国の手続きについては、オンライン申請の導入率が約96%となっていますが、都道府県を経由する許認可申請(建設業許可、農地転用許可など)は未だオンライン化されていません。

関連ブログ>>宅建業電子申請システムから学ぶ、電子申請の課題と可能性

そのせいもあって、行政書士にとってのオンライン申請は、「まだまだ先のこと」と考える向きがあるようです。

しかし、いくつかの手続きについては、依頼者のニーズや実質的なメリットにより、積極的にオンライン申請を利用しています。例として、

・会社設立時の電子定款作成:印紙代4万円が不要となるので、依頼者から要請がある。

・登記事項証明書のオンライン請求:電子署名不要、手数料3割引、送料無料、1-2日でお届け=窓口での紙請求より断然お得!

・入札参加資格審査申請:国だけでなく自治体でも導入が進んでいる電子入札は、利用が強制されるので、対応が必須となる。

つまり、運用の仕方次第で、かなり使いづらいオンライン申請システムであっても、ある程度は利用されるのです。そして、実際の利用が増えることで、

・利用者視点でシステムが改善され
・行政も予算を取りやすくなる

いといった「好循環」が生まれる可能性もあります。

行政は、「好循環」を生み出すために、どのような仕掛け(インセンティブ)を提供するべきか、よく考える必要があるでしょう。そのためには、利用者のことを適切に理解した上で、実際の利用(行動)に導くことが大切なのです。

次回は、本シリーズの最終回として、企業担当者の声を取り上げると共に、電子政府推進員のあり方について考えてみたいと思います。

“第3回関東電子政府推進員協議会(4):士業のオンライン申請への取組(社会保険労務士、行政書士)” に3件のコメントがあります

  1. OSSと行政書士
    関連情報です。
    総務省が、
    http://www.soumu.go.jp/s-news/2007/071120_2.html
    印鑑証明書でもワンストップサービスが利用可能となります
    自動車保有関係手続のワンストップサービス

    同じく国交省が、
    http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha07/09/091120_2_.html
    印鑑証明書でもワンストップサービスが利用可能となります
     ~自動車保有関係手続のワンストップサービス~ 

    両省が同一文書を配布しています。
    その中に、
    「ただし、この申請を一般の方が行うと数回運輸支局に来庁する必要があることから、大量の申請が想定される行政書士及び社団法人日本自動車販売協会連合会による代理申請を対象としております。」とあり、実質にはこうした代理人向けのオンライン申請システムが構築されるということです。新車購入者自身が手続する方式ではありません。

    ところで、「行政書士」が代理できるとあるが、実際にはこれ「不可能」です。何故か、手続きするに別途に申請データー作成ソフトプログラムの開発が条件、要件となっています。個々の行政書士に、これの開発する能力や資力もありません。(汗)開発費も数百万とかの見積さえありますので。
    いきおい資金力のある自販連が一手に引き受けて手続することにもなります。

    なお、現場での代理人としては自販連以外の標板協議会傘下の団体も手続できるシステムとしています。

    また、こン会の方式は自動車保有関係手続のポータルサイトの玄関から手続するのではなく、いうならば「勝手口」からログインする手続になります。

    結果的に、この勝手口での手続がオンライン利用件数のほとんどを占め、利用率も50パーセントを超えるものと思われます。
    表玄関たるポータルサイトの利用者はほとんどいない状況になるのは間違いありません。

  2. さすがに
    イエモリさん、こんにちは
    最新情報ありがとうございます。
    さすがに早いですね。

    公式アナウンスが出たので、この件は別ブログで取り上げますね。

  3. 既に「勝手口」から手続をやっていた?
    むたさん、
    >公式アナウンスが出たので、この件は別ブログで取り上げますね。

    はい、よろしくお願いします。

    ところで、ですが。。。。
    現行のOSS手続で、利用件数が5000件程度といわれています。その利用が多い販売店には表彰制度を設けています。記念品ぐらいは付くのかもしれないけど。
    正確情報ではないので、あれですが・・・・
    現行の5000件程度のほとんどは、「勝手口」から手続を行ったものらしい。正面玄関のポータルサイトからではない、と。
    今後は大挙して勝手口で手続することになりますね。

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