社会保障カードへの提案(1):まずは「社会保障番号」の議論をオープンにするべき
先日、医療評価委員会(平成19年度・第5回)において「社会保障カード(仮称)に関するヒアリング」が行われました。電子政府にも関係することから、作者も参加して意見を述べてきました。今回は、その時の意見を中心として、社会保障カードへに対する作者からの提案をご紹介したいと思います。
●サービス、費用対効果、外国人への対応
医療評価委員会のヒアリングで作者が述べた意見は、次の三つです。
1 国民の理解や安心を得られるサービス提供を
2 費用対効果+財務的な弱者(自治体、病院等)への支援を
3 外国人への対応を
サービス提供については、後で詳しく述べるとして、他の2点を少し説明しておきましょう。
費用対効果については、数千億円のお金が動くプロジェクトですから、当然に考慮しなくてはいけません。特に心配なのが、財務的な弱者へのフォローです。
住基ネットや公的個人認証サービスでは、国が自治体に「丸投げ」とまでは言いませんが、「じゃあ、後はよろしくね。」といった感じでお任せしたので、自治体の大きな負担となりました。今回も、「発行時の本人確認」など自治体の負担が予想されますので、具体的な支援策の提示が必要ですね。
病院でも、「ICカード保険証を提示されたら、それをリーダーで読み取って有効性を確認する・・・」となると、機器をそろえたり業務システムやフローを見直したりしなければいけません。これも大きな負担となるでしょう。
外国人への対応は、論点にも含まれていなかったので挙げておきました。
在日外国人は、住基ネットや公的個人認証サービスの対象外ですが、適法に滞在する外国人の多くは医療保険等の公的サービス対象者ですから、当然に社会保障カードの対象者となります。
最近実施された「新しい入国審査手続」や、現在検討されている「外国人登録制度の統合」などの状況を踏まえながら、少なくとも今までと同等以上の公的サービスを外国人も受けることができることが必要です。
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●「社会保障カード」は入れ物、前提となる制度の議論はどこへ?
ヒアリングを聞いて感じたことは、次の3点。
1 前提となる「社会保障番号」の議論はどこへいったの?
2 「ICカードありき」で議論が進んでいるのでは?
3 年金記録問題に乗じて、事を進めようとしているのでは?
このままでは、
・住基ネットのように、国民が不信感・不安感を抱き
・効果が望めない、いびつな制度ができてしまい
・ベンダー(特にICカード関連)だけが嬉しい
となってしまう可能性が高いでしょう。
※「社会保障カード」は、1億枚を超える規模で発行されるので、「ICカード特需」と言われています
関連ブログ>>電子政府におけるICカードとPKIの市場(6):まだまだ高価なICカード、導入は慎重に
●「社会保障番号」の議論をオープンにするべき
これまでの検討の経緯を考えると、「社会保障カード」が「社会保障番号(全国民に付与)」制度の導入を前提としているのは明らかです。
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ところが、厚生労働省が提出している資料には、「社会保障番号」といった記述は見当たりません。
ちなみに、国民のID(番号)管理については、他の委員から質問が出たときに、厚生労働省は「これから検討する」と回答していました。
住基ネットの「住民票コード」を採用することは、現行制度上困難であり、そもそも使い物にならないことを考えると、各種番号(年金、医療保険、介護保険)を統合した「社会保障番号」を導入することになるでしょう。
作者自身は、「納税者番号」としての利用を含めて「社会保障番号」の導入は「あり」だと考えています。もちろん、いくつかの条件を満たす必要がありますが。。
仮に、
・年金記録問題のどさくさに紛れて
・国民が良く知らないところで
・社会保障カードとセットで
・いつの間にか「社会保障番号」の導入が決まってしまう
としたら、それは明らかに「なし」であり「NO」です。
厚生労働省がするべきことは、「社会保障番号」を導入するしないに関わらず、この問題をオープンに議論して、国民に対して積極的に情報を開示し、意見を求めていくことです。
しかしながら、「社会保障番号」という非常に重要な国民全体の問題を、厚生労働省だけで検討することは、ちょっと無理があります。ですから、首相直轄の審議会等で、反対派を含めた様々な立場のメンバーによるオープンな議論が必要と考えます。
●「社会保障番号」で、国民が政府を監視する
住基ネットの議論でも挙がっていましたが、「政府による監視社会の到来」や「政府による国民のプライバシー侵害」などが、しばしば懸念されます。
実際には、「住基ネット」や「社会保障番号」の有無に関係なく、公務員が国民の個人情報を興味本位で閲覧することも、名寄せして別途データベース(要注意人物リストなど)を作ることも可能(法律上は原則としてダメですけど)なので、今さら心配しても仕方ないでしょう。
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であれば、「社会保障番号」や電子政府サービスを通じて、自分の個人情報を管理することで、国民が政府や企業を監視できるようにするのが得策と思います。
具体的な方法については、次回以降で詳しく述べていきましょう。