第3回関東電子政府推進員協議会(5):推進したいのか、改善したいのか
『第3回関東電子政府推進員協議会(4):士業のオンライン申請への取組(社会保険労務士、行政書士)』の続きです。本シリーズの最終回として、企業担当者からの意見を紹介すると共に、電子政府推進員のあり方について考えてみたいと思います。
●企業担当者からの意見
電子政府推進員における「企業担当者」というのは、企業内で税務・経理・人事・労務・法務といった部門で、実際に行政への手続等を処理している人たちのことです。
せっかくの「企業担当者」の生の声を聴ける機会だったのですが、振り当てられた時間が非常に少なかったため、詳しく聴くことができませんでした。
象徴的な意見として、いくつかご紹介しておきましょう。
★社印(電子証明書)の取扱いが不便である
会社の実印である「代表者印」は、社内では大切に管理されており、「代表者印」をもらうことは、事務処理をする上で負担となります。
ですから、通常の事業活動においては、事業所長といった人たちの「役職印」を使って業務を行います。
ところが、オンライン申請では、「代表者印」としての電子証明書(電子署名)しか認められておらず、その管理や利用が面倒とのこと。
これは至極最もな意見であり、以前から言われていることです。
行政が企業に対して、オンライン申請で電子署名を要求するのであれば、事業所(申請単位)ごとに無料で電子証明書(用途を限定)を配布するぐらいの措置が必要でしょう。
★住民税の電子化をして欲しい
企業に勤務する人は、源泉徴収(毎月の給料から天引き)されるので、所得税の申告については、あまり関心が無いようです。
しかし、住民税については、今年から地方税の割合が増えたこともあって、関心が高いようです。作者の周囲でも、「急に多額の住民税を請求されたけど、どうなってんの?」と苦情に近い声を数多く聞きました。
恐らくは「住民税の電子化をして欲しい」というよりも、「税金の徴収について、もう少し払う身になって考えて欲しい」ということだと思います。
例えば、
・年末調整や確定申告の終了時に、住民税の予想額が提示される。
・インターネットから、クレジットカードで分割払いができる。
といったサービスがあるだけでも、多くの市民が助かることでしょう。
これに関連して、次のような話もありました。
ある企業で電子申告したところ、税金の引き落としが期日の予告無しに行われたため、他の支払いに用意していた金額が足りなくなって、とても困ったと。
これなどは、まさに「税金を支払う側の立場を考えていない」ことの表れと言えるでしょう。企業の場合、下手したら「不渡り」となって、事業活動に重大な被害を及ぼしかねないことです。
これも、
・電子申告する際に、特定の期間内であれば引落し期日を指定できる
といった、いたってシンプルなサービスを提供することで解決できる問題です。
★オンライン申請は自治体の負担が大きい
これは、他の有識者の方から挙がった意見ですが、作者としては「自治体にも責任がある」と考えています。
もちろん、国から「公的個人認証サービス(電子署名)に対応したオンライン申請システムを構築せよ」といったプレッシャーはありました。
しかし、費用対効果や住民のニーズを十分考えずに、とりあえず電子申請のパッケージや共同運営システムを導入したという自治体においては、後々に負担となるのは自業自得とも言えるからです。
最近では、ASP方式等への移行により、運用費の低価格化が進んでいるので、負担は少なくなってきています。けれども、利用状況については、図書や施設の検索・予約サービスが大半を占めており、高額なオンライン申請システムは開店休業状態となっています。
今後は、利用状況に応じて、システムの停止や統合を行い、本当に使ってもらえるサービスを、市民と一緒に作り上げていくことが必要です。
そのためには、システムの調達方式、開発手法、業務プロセスなどの見直しが必要となります。こうした見直しがない限り、何度やっても同じことが繰り返されることでしょう。
●電子政府推進員の課題
最後に、電子政府推進員の課題を考えてみましょう。課題としては、次のようなものがあると思います。
・参加者が少ない
・オープンでない
・成果がよくわからない
・推進員の役割がよくわからない
・今後の展開が不明である
「第3回関東電子政府推進員協議会(1):電子政府推進員の活動と成果」で紹介したフォーラムの分類を見てもわかると思いますが、実際に発言をするのは士業ばかりで、その内容もかなり専門的です。
士業にとっては、オンライン申請への対応は死活問題にもなるので、一般利用者との温度差が大きいのですね。
つまり、現状の「電子政府推進員」制度は、実質的には「士業のための制度」となっているのです。
一年に一度開催される協議会でも、士業がメインで、企業担当者を含めた一般ユーザーは、ほとんど「おまけ」みたいな感じでしたし。。
●推進か、改善か
「電子政府推進員」制度における一番の問題は、「電子政府推進員」が何をするのか、はっきりしていないことです。
行政は、「電子政府推進員」に「オンライン利用を推進して欲しい」のか、それとも「改善策を考えて欲しい」のか、ということです。
どちらにするかで、推進員の活動内容は、全然違ってきます。
例えば、電子政府コンサルタントである作者は、使いづらくて効果が少ない(投資に見合わない)オンライン申請の利用を、人に勧めることはしません。逆に、利用者の環境を踏まえた上で、「使わないほうが良いですよ」と言うこともあります。
その一方で、優れたお得な電子政府サービスについては、利用をオススメしています。
これに対して、「改善策を考えて提案する」のは、「推進」とは全く別の作業です。
現状では、推進員に対して「推進」を求めると同時に、「改善策を考えて提案する」ことまで求めているようなので、これは止めた方が良いでしょう。
改善策については、利用者アンケートやヒアリング等で、各省庁や団体が既に行っていますし、今後はオンライン申請に関する「オンブズマン制度」もできますので、「電子政府推進員」とは別枠で進めた方が良いと思います。
今後の「電子政府推進員」制度については、「推進」に絞った上で、次のようにすると良いでしょう。
・推進員の役割について、具体的な行動(アクション)と結びつけて明示する
・具体的な目標を掲げる
・生まれた成果を公表し、次の行動を考える
早い話が、「電子政府推進員」にもPDCAサイクル(計画>実行>評価>改善)が必要と言うことです。
「電子政府推進員」は、仮にも税金を使って運営される国の制度ですから、どっちつかずで、なんとなくダラダラと続けるのであれば、いっそのこと止めてしまった方が良いと思います。
なお、総務省でも、電子政府推進員の活動内容について、各推進員に活動状況を報告させています。そこで例示される活動内容は、次の通りです。
・企業や個人の顧客に対する、オンライン申請利用の働きかけ
・新聞・雑誌等へのオンライン促進に関する記事の投稿
・オンライン申請に関する講演等
・行政機関、企業、団体等との意見交換
・自身のホームページ等でのPR活動
・オリジナルのチラシ・パンフレット等の作成・配布
・企業(組織)内における意見交換
・電子政府推進員フォーラムへの投稿
・電子政府推進員協議会での報告等
こうした具体的な行動について、具体的な目標値を設定した上で、定期的に計上すると。
その結果を、各オンライン申請の利用状況(分野、地域など)と照らし合わせていけば、電子政府推進員がどれぐらい機能して効果を上げているか、ある程度はわかるはずです。その結果を、国民に対しても公表していけば良いのです。
さて、上記のような提案をしてみたものの、「電子政府推進員」制度が、オンライン利用推進に役立つのかと言えば、正直なところ難しいでしょう。
なぜかと言えば、「根本的なところで発想がずれている」と思うからです。この点については、また別の機会にでも。。
発想のずれ
むたさんの、
>なぜかと言えば、「根本的なところで発想がずれている」と思うからです。この点については、また別の機会にでも。。
うーん。たしかに発想がずれていれば、軌道修正も困難ですよね。
なお、業界的にも(行政書士会に限るかもしれないが)この電子政府推進制度に期待している部分はほとんど無いのですよね。
地方の推進委員から、いろいろ話を伺いますが、、、、「安い日当で呼ばれて、なんの会議なのかさっぱりだ」と。
このままでは厳しい
イエモリさん、こんにちは
コメントありがとうございます。
確かに、会議で皆さんと話をしても、
・何をすれば良いのかよくわからない
・総務省以外は、行政関係者の出席も無い
・士業ばかりの発言で、市民が置いてけぼり
という感じで、あまり期待はないようです。。
電子政府推進委員制度話題と違うが
こんなことは、推進委員会では話題にさえならないのかもしれないが。
電子政府推進での話題提供。
官報WEBサイトの次に、
http://kanpou.npb.go.jp/html/syomei.html
こちらに、電子署名の検証用のソフトを紹介しています。SignedPDF Verifierをインストールしてくれ、と。
さて、法務省の次のサイト、
http://shinsei.moj.go.jp/usage/zyunbi_PDF.html
法務省オンライン申請システム環境整備でpdfへの署名するプラグインソフトには、次のSignedPDFを推奨しています。
ところが、これらソフトは一台のパソコンにはインストールできないのです。同一メーカーの電子署名に関するソフトですが。まぁ、その仕様によるから同一パソコンには不可らしい。
で、その解決策は二台の端末を用意してくれ、です。官報の閲覧用パソコン、法務省申請用のパソコン、と複数台設置しなければならない。
まぁ、官報は独法なので国だとは言えないもの、ここらあたりも電子政府が推進出来ない部分ではないか、と。
こうした話題をどんどん推進委員会が取り上げれば、形式上「適正活動」をしているように第三者的には評価されるかもしれないですよね。
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