社会保障カード(仮称)の基本的な構想に関する報告書:現状では、国民の利便性向上は難しい
厚生労働省から、『社会保障カード(仮称)の基本的な構想に関する報告書』が公開されています。「社会保障カード(仮称)の在り方に関する検討会」における議論を取りまとめたものです。
●社会保障カードとは
・年金手帳、健康保険証、介護保険証としての役割を果たす
・年金の記録等を自宅においても常時、安全かつ迅速に確認できる
・将来的な用途拡大にも対応可能なものとする
・2011年度(平成23年度)を目途に導入することを目指す
・今後、費用等を含めた選択肢を整理し、更に具体的な仕組みの検討を進める
とされています。まだ導入が決定されたわけではありませんが、このままいくと、ICカード型の社会保障カードが発行されるのは、ほぼ間違いないでしょう。
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それでは、もう少し具体的な内容を見てみましょう。
(1)利用者の利便性向上と保険者・サービス提供者等の事務効率化を実現する。
○年金手帳、健康保険証、介護保険証が1枚のカードになる
・1枚となることで、保管、携帯に便利。発行の事務負担も軽減される。
・現在の保険証等に記載されている情報がICチップなどに収録され、プライバシーの保護に優れる。
・引越、転職等で保険者を異動した場合でも、保険証の再取得等が不要。
・医療機関等の窓口で即時の資格確認が可能となることや、保険証の情報の転記ミスがなくなることで、事務負担が軽減。
・制度や保険者をまたがった場合でも、個人を同定することができるので、制度間の併給調整等の事務負担が軽減。
○自分の年金記録等を自宅のパソコン等からいつでも安全かつ迅速に確認可能
・利用者にオンラインで提供する環境が整うことを前提として、希望者は、自分の特定健診結果等の健康情報も閲覧することが可能。
・希望者は、身分証明書として利用することも可能。
★作者コメント
保険証の再取得等が不要になるのは、確かに便利ですね。ただし、注意しなければならないのは、ここで書かれている利便性は、カードをICチップで一枚にしただけでは実現できないということです。
・関係機関がオンラインで繋がって
・役所間の縦割りもなくなって
・情報の連携が出来るようになったら
といった条件付きの利便性なのですね。
ですから、「社会保障カード」を発行するのは、上記の条件をクリアできる目処が立ってからでも良いわけです。むしろ、その方が失敗するリスクを減らすことができるでしょう。
なお、「自分の年金記録等を自宅のパソコン等からいつでも確認」については、既に実現されています。
また、身分証明書として利用は、住基カードのような偽造・悪用が予想されるので、適切な対応が必要です。
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(2)プライバシー侵害、情報の一元的管理に対する不安が極力解消される仕組みとする。
○ カードに収録する情報を本人確認のために必要な最小限のものに限定するとともに、安全性に優れたICカードを導入し、不正な情報の読み出し等による被害を防止する。
※カードに収録する情報は、移行期や異常時の対応等を踏まえて決定する。
○ 資格情報は、従来通り、各制度の保険者が管理し、資格情報を何らかの方法で関連付けた上で、カードには加入者を特定するための鍵となる情報を収録し、その情報を利用してデータベース上の資格情報にアクセスすることにより、資格確認を行う。
※加入者を特定するための鍵としてカードに収録する情報の選択肢
案1:各制度共通の統一的な番号
案2:カードの識別子(カードを識別する記号等)
案3:各制度の現在の被保険者番号
案3-2:各制度内で不変的な番号を創設
案4:基本4情報(氏名、生年月日、性別、住所)
○ 資格情報のセキュリティ対策を徹底するとともに、カードの収録情報に応じた利用制限(例:番号の告知要求制限、データベースの構築禁止等)を検討する。
★作者コメント
いわゆる「国民背番号制」と関係が深いのが、「加入者を特定するための鍵としてカードに収録する情報」の問題です。
どの方法を選択するにしても、一長一短があります。大切なのは
・国民の理解を得る努力を惜しまないこと
・国民が政府や企業を監視できるようにすること
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(3)コストを抑えつつ、より多くの効果を実現する、費用対効果に優れた仕組みとする。
○ 関連する仕組み(レセプトオンライン請求、住基カード発行、公的個人認証サービス、電子私書箱等の仕組み)を最大限に活用し、必要となるコストを抑制する。
○ 簡単・確実に自分のカードを受け取ることができ、自分以外が受け取ることがない方法を検討する。
※カードの交付についての選択肢
案1:市町村が交付
案2:医療保険者が交付
案3:年金保険者たる国が交付
★作者コメント
関連する仕組みには、まだ実現されていないものもありますね。活用できそうなのは、住基ネットぐらいでしょうか。社会保障カードが本格的に普及すれば、住基カードはほとんど必要なくなる気もしますし。
公的個人認証サービスは、現在のような発行ルールのままでは、活用は難しいでしょう。電子証明書を使いたいのであれば、最初から社会保障カードに格納されているのが好ましいからです。
費用対効果については、
現状、保険証等の発行管理の費用について
・誰が、いくら負担していて
社会保障カードの発行により
・誰が、いくら負担するのか
を明らかにする必要があります。
社会保障カードの発行で確実に言えるのは、「ICカード発行や機器整備等の費用が発生すること」です。
他方、利便性向上や事務効率化については、あくまでも「政府が期待すること」であって、確実なものではありません。むしろ、「実現は難しいものばかり」と考えた方が良いでしょう。
社会保障カードの議論が「国民不在」とならないように、今後もチェックしていきたいと思います。