厚生労働省のオンライン申請から学ぶ(2):簡単に利用できるオンライン行政サービスを増やすべき
厚生労働省のオンライン申請から学ぶ(1):「利用されるオンライン申請」とは
の続きです。
今回は、「年金個人情報提供サービス」を例にして、「使われるオンライン行政サービス」のあり方を考えてみたいと思います。
本ブログでも繰り返し言っていますが、国民が望むのは「オンライン申請」ではなく、良質な行政サービスです。電子政府が実現するべきなのは、「使われないオンライン申請」ではなく、インターネット経由で誰でも簡単に使える便利なサービス=「使われるオンライン行政サービス」なのです。
関連ブログ>>電子政府のニーズは、民間サービスを見ればわかる
●どんなオンライン行政サービスが使われているのか
先ごろ発表された「社会保障カード(仮称)の基本的な構想に関する報告書」の参考資料「現行の年金記録情報の提供方法について(PDF)」を見てみましょう。
資料で紹介している「自分の年金記録を確認できるサービス」は、次の4つです。
1 年金見込額試算(オンライン申請:ウェブサイトから申込み、結果を郵送)
2 年金加入記録照会・年金見込額試算(オンライン申請:電子署名方式)
3 年金個人情報提供サービス(オンライン閲覧:ユーザID・パスワード方式)
4 ねんきん定期便(オフラインサービス:郵送)
ちなみに、現在行われている「ねんきん特別便」は、「ねんきん定期便」の特別版で、年金記録の修正を目的とした緊急措置としての意味合いが強くなっています。
また、現在は上記4サービスに加えて、「ねんきんあんしんダイヤル」(電話で申込み、結果を郵送)もあります。もちろん、窓口でも確認できます。
関連>>年金相談の窓口一覧
各サービスの利用状況を見ると、
1 年金見込額試算:17万6339件(平成18年度)
2 年金加入記録照会・年金見込額試算:327件(平成18年度)
3 年金個人情報提供サービス:92万9741件
(平成18年3月開始から19年8月までのユーザID・パスワード累積発行件数)
4 ねんきん定期便:被保険者全員に送付を予定
となっています。
「年金見込額試算」は、「50歳以上の公的年金制度加入者」に限定されたサービスですが、そこそこ利用されています。中高年の人でも、簡単に利用できるオンライン行政サービスなら使ってくれるのですね。
他方、「年金加入記録照会・年金見込額試算」の利用状況は悲惨です。「全ての公的年金制度加入者」が利用できるにもかかわらず、なんと327件しかありません。これなら、廃止しても国民は困らないでしょう。
群を抜いて利用者が多いのが、「年金個人情報提供サービス」です。
本サービスで確認できるのは加入履歴だけで、年金見込額はわかりません。また、老齢年金を受けている人(年金が決定されて停止中の人を含む)も利用できません。にもかかわらず、92万件もの利用申込みがあったのです。
年金記録問題が明らかになるまでは、ID発行数は数十万件ぐらいだったのですが、現在は優に100万件を超えています。
関連>>社会保険庁ホームページの利用者数が、官公庁トップの225万人に:Nielsen//NetRatings
目的は年金見込額の試算と、加入記録のインターネット閲覧申込み。平成19年6月のID・パスワード申請数は50万5836件。
100万人の利用者というのは、オンラインサービスとしてはかなり大きな数です。
例えば、オンライン証券の口座数(2007年6月現在)は、最大手のSBIイー・トレードでも約150万件。2位以下のマネックス、楽天、松井証券では、70万件前後となっています。
参考資料>>SBIイー・トレード証券株式会社:決算説明資料(PDF)
●「ニーズがある」だけではダメ、「簡単に利用できる」が必須条件
「年金個人情報提供サービス」の利用が増えたのは、「年金記録問題による不安」という一過性のニーズがあったことが大きいと思いますが、それだけで100万件を達成できるものではありません。
仮に「年金個人情報提供サービス」が電子署名を要求するものだったら、100万件の達成はなかったはずです。
実際に、年金個人情報提供サービスのトップページを見てみましょう。
サービスが特定分野の限られた行為(年金加入記録の確認)となっているので、メニューもいたってシンプルで、ほとんど迷うことがありません。
利用者登録も簡単で、年金手帳が手元にあれば、すぐに申込みは終わるでしょう。
利用環境(推奨OS・ブラウザ)は、
・Microsoft Windows2000(SP4)」以降のOS
・Internet Explorer 5.5(SP2)」以降のブラウザ
となっており、マック非対応ですが、一般的なパソコンとインターネット環境があれば問題ありません。
実際の利用も、「ユーザID・パスワード」以外に「お客様設定パスワード」が必要となるあたりはちょっと注意が必要ですが、誰でも簡単に利用できるレベルとなっています。
関連>>年金個人情報提供サービスのユーザーIDとパスワードが到着しました:Garbagenews.com
サービスの利用時間も24時間365日(定期メンテナンス日を除く)で、「よくあるご質問」の内容も合格点と言えるでしょう。
不満があるのは、電話での問い合わせ時間が、平日の午前9時00分~午後5時15分に限定されていること。これでは、「平日に働いている人が実際の画面を見ながら電話で質問する」ことができませんので、改善が必要でしょう。
ともあれ、「年金個人情報提供サービス」は、「実際に使われているオンライン行政サービス」の代表格であり、「使われるオンライン行政サービス」のあり方=「国民に許容されるサービスレベル」を示していると言えるでしょう。
●やる気をなくすオンライン行政サービスは、まず使われない
ちょっと意地悪な気もしますが、「年金個人情報提供サービス」と比較するために、「使われないオンライン行政サービス」として「e-Gov電子申請システム」を見てみましょう。
「e-Gov電子申請システム」とは、国の手続の大部分を集めたオンライン申請の親分みたいなものです。
さて、e-Gov電子申請システムのトップページを覗くと
・文字だらけの説明
・多すぎる選択肢
・理解できない用語
となっており、普通の人はこの時点でやる気をなくしてしまうでしょう。
致命的なのは、「いったい何ができるのか」「自分にとって必要な手続が対応しているのか」などが、さっぱりわからないことです。
このトップページに耐えた我慢強い人も、
e-Gov電子申請システムご利用の手順とご注意やe-Gov電子申請システムのご利用方法で、ほぼ間違いなく玉砕します。
「e-Gov電子申請システム」の利用状況は公開されていないようですが、「使われないオンライン行政サービス」であることは間違いないでしょう。
●簡単に利用できるオンライン行政サービスを増やし、機能を追加する
政府は、とてもじゃないけど使われないようなオンライン申請を、一生懸命に国民に利用させようとしています。
しかしながら、これでは本末転倒です。
大掛かりでお金のかかる「使えないオンライン申請」を、国民は望んでいません。
そんなものは、できるだけ早いうちに廃止するなり、統合・分離するなりすれば良いのです。
関連ブログ>>パスポート電子申請から学ぶ、電子政府サービスの引き際
まずは、国民のニーズに合致した簡単に利用できるオンライン行政サービスを増やしていくこと。それが、今の日本の電子政府・電子自治体サービスにとって必要です。
オンライン申請を利用してもらいたければ、「実際に使われているオンライン行政サービス」の追加・オプション機能とすれば良いのです。
例えば、既に100万の利用者を抱える「年金個人情報提供サービス」の画面から、「年金記録の確認」以外に、関連する手続でニーズの高いものを一つか二つオンライン申請できるようにする。それが利用してもらえたら、更に一つか二つ増やしてみると。
「国・地方公共団体に対する申請・届出等手続におけるオンライン利用率を2010年度までに50%以上とする」という目標が、「利用率●%以下で今後の利用拡大が難しいものは、順次、統廃合していく」となるのも、もはや時間の問題かもしれませんね。
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