橋下府知事へのエール(2):本当に必要な事業こそ、行政を頼りにしない
橋本知事に関係するニュースで、気になった記事をもう一つ取り上げましょう。
どうする橋下知事?「街かどデイハウス」の存続要望高まる – MSN産経ニュース
その内容は、「街かどデイハウス」という高齢者を支援する事業が、補助金全額削減の方針が打ち出されたため、存続の危機に瀕(ひん)しているというもの。
事業内容を見る限り、確かに、これからの社会に必要な事業と思いました。特に、高齢者のひきこもりや要介護となることを「予防する」のは、とても大切です。
しかしながら、「事業が必要なこと」と「行政が補助金を出すこと」は全くの別問題です。
本当に必要な事業であれば、補助金に頼らなくても、存続させる方法はいくらでもあるということです。
むしろ、本当に必要な事業だからこそ、補助金に頼らなくても運営を維持できるようにするべきでしょう。
なぜなら、補助金頼りは、事業や運営組織を弱体化するからです。
作者であれば、次のようにするでしょう。
- 行政は場所(公共施設)を無料で提供するが、補助金は出さない
- 経営(財務を含む)は、ボランティアやNPOで行う
- 業務を分割・分類・分析して、不要なもの、無駄が多いものなどを洗い出し、優先順位をつける
- 提供するサービスの一覧から、核となるサービス、利用者に人気が高い(低い)サービス、無くなってもあまり支障が無いサービスなどを洗い出す
- 見込める収益(利用料)だけで何が実施できるかを、優先順位を考慮しながら決める
- 足りない分は、企業や府民からお金を集める(寄付、他の収益事業など)
「街かどデイハウス」に必要なのは、補助金ではなくて、優秀な経営者と財務担当者なのです。
●成果が見えなければ、お金は集まらない
記事に書かれている「街かどデイハウス」を整理すると、
- 運営は、地域のボランティアやNPO(民間非営利団体)が行っている
- 大阪府が平成10年から事業化し、補助金を出している
- 19年度の運営予算の総額は約5億7600万円(府75%:市町村25%)
- 現在、府内約160カ所にあり、利用者は約5200人
- 1日の利用料は約800円
単純に考えて、1ヶ所当たり360万円の補助金が支払われていることになります。
「5億7600万円」というと大変な金額に感じますが、「360万円」なら、補助金に頼らずとも何とかなりそうに思うのではないでしょうか。
全体の利用者5200人が、年に10回利用すれば、
5200人×10回×800円=4,160万円の収益が見込めます。
年間利用を20回にできれば、1億円近い金額を捻出できるようになりますね。収益だけで、固定費とサービスの一部ぐらいは賄えるでしょう。
お金のこと(特に自立)を考えた場合、非営利事業にも、企業のような考えが必要です。
すなわち、
・投資してくれる人たちに対して
・事業の必要性を合理的に説明し
・具体的な成果を見せる
ということです。「街かどデイハウス」の場合は、
- 何のために事業をしているのか(社会的な使命、短期・長期の視点)
- 事業の成果は何か(顧客満足、要介護者の減少など)
- どんな人たちが利用し、喜んでくれているのか
- どんな人たちが手伝ってくれているのか
- 利用者数は、どのように推移しているのか
- 利用者の満足度は、どのように推移しているのか
- 今後、どのようなサービスが必要になるのか
- 何をするために、いくら必要なのか
などを、事業を支援してくれそうな企業や団体に、運営責任者自身が伝えていく必要があります。
これからの世の中、ただ「お金に困っている」「高齢者のためだから」と情緒に訴えるだけでは、お金は集まりません。仮に集まったとしても、それを維持することは困難です。
合理的でわかりやすい説明・資料を提供し、支援してくれる人たちが、「いいことにお金を使えた」「自分たちのお金が実際に役立っている」と実感し納得できないとダメなのです。
何しろ、どこの地域や家庭でも、多くの高齢者を抱え、福祉や医療のお金が足りなくて困っているのですから。
●補助金頼りは、「顧客中心主義」を忘れてしまう
「街かどデイハウス支援事業費補助金実施要綱」を見ると、 次のような記述があります。
第2条 街かどデイハウスは、高齢者が住み慣れた地域でいつまでも自立した生活を続けられるよう、介護予防・地域支え合いに資する次の各号に掲げる活動を行うものをいう。
(1) 必ず実施すべき活動
ア 給食
イ 健康チェック
ウ 健康体操
エ 介護予防につながる取組み及び閉じこもり予防
(2) 必要に応じて実施する活動
ア 趣味・創作活動
イ レクリエーション活動
(3) 利用者の希望に応じて実施する活動
ア 介助浴
(4) その他住民活動を通じた新たな地域社会の創造に資する活動
関連>>街かどデイハウス支援事業(大阪府 健康福祉部高齢介護室)
つまり、「行政が一律に提供するサービス内容(必ず実施すべき活動)を決めている」のです。
もうこの時点で、ちょっと違和感があります。
なぜなら、どんなサービスを提供するかは、
・利用者のニーズや満足度
・ボランティアの能力(得意なこと)
・地域ごとの事情など
を考慮しながら決めることであり、社会の変化に応じて、柔軟に修正する必要があるからです。
「必ず実施すべき活動」とある
・給食
・健康チェック
・健康体操
・介護予防につながる取組み
・閉じこもり予防
のうち、利用者が最も重視するものは、どれでしょうか。
利用者は、どんな価値を見出して、わざわざ施設に足を運び利用料金を払ってくれるのでしょうか。
もしかしたら、「必ず実施すべき活動」のどれでもなく、「仲間(利用者、ボランティア)と一緒に楽しい時間をすごせること」が、最大の価値であり、利用してくれる理由なのかもしれません。
その場合は、「どんなサービスを提供すれば、参加した仲間と楽しさや達成感を共有できるか」を考える必要があります。
そして、「楽しさや達成感の共有」が、高齢者の健康にどのような影響を与えるのかを、合理的に説明できれば、事業の説得力も高まるでしょう。
●署名集めも良いけれど・・・事業を存続させるために必要なことは?
本当に「街かどデイハウス」が必要と思うのであれば、署名を集めるよりも
- 自分たちがやっていること・その使命と成果をわかりやすく説明する
- 支援者を集める
- 業務分析を行い、効果的な予算の使い方を考える
ことを、強くオススメします。
作者も12年ほど日本語ボランティアを続けていますが、川崎市の予算で、ボランティアと行政が協力して運営しているので、「かなり甘やかされた環境」にあると言えます。
しかし、 「行政の支援」は、決して当たり前のものではなく、いつ廃止されてもおかしくありません。
だからこそ、「行政の支援」が無くなっても、事業を続けていくことができるように、備えておく必要があると実感しています。
今回は、「橋下府知事へのエール」と言うよりは、「街かどデイハウス」へのエールとして、提案してみました。事業の継続と発展をお祈りします