日本の電子政府が良くならない本当の理由(11):約束させないと各自が勝手なことを言いコスト高になる
今回は、「政府が国民に対して宣言し約束する」の事例を紹介する。
人は、約束をすると、その通りに行動する傾向があるとされる。例えば、「明日、投票に行きますか?」と聞かれ、「行きます」と答えた人は、約束通りに投票に行くことを選ぶという。
「不言実行」よりも「有言実行」の方が、実行を期待できるというわけだ。
公共マーケティングなどでは、この傾向を利用した手法があり、そのポイントは次の通りである。
- 約束の内容は、できる限り簡潔で具体的なものとする。
- 約束を公表する(新聞、インターネットなど)
- 関係する組織や人にも約束してもらう
- 約束が何度も目や耳に触れるよう、最も持続性のある方法や形式を使う
●マニフェストによる約束
日本における具体的な事例としては、選挙・政治のマニフェストがある。マニフェストの導入により、地方政治は随分と変わった。
関連>>マニフェスト – Wikipedia|ザ・選挙 -マニフェスト検索-|マニフェスト大賞
東国原英夫知事のマニフェストも話題になったが、宮崎県では、部長マニフェストといったものもある。
行政の各部門の責任者がマニフェストを作り公表すれば、責任がより明確となり、後になっても責任の追及が可能となる。
電子政府であれば、各サービスの事業責任者を決めて、宣言・約束をさせれば良い。この場合、「コストを減らしてサービスを良くする」宣言に加えて、より具体的な「国民のニーズに合ったサービス品質」も保証させる。
●契約による約束
電子政府サービスを民間委託すれば、「契約」という約束により、各自の責任が明確になるだけでなく、法的な拘束力を持つことになる。
最近は、政府とベンダー間によるSLA(サービス基準協約)も出てきたが、達成するべき「利用者満足度」などが明記されておらず、その内容は顧客である国民を考慮したものとは言えない。
政府が提唱する「次世代電子行政サービス」も、税金を使って作るのであれば、関与する人や組織に約束させ宣言させるべきだ。実証実験等の委託契約の前文にも、約束・宣言を盛り込むと良い。
「コストを減らしてサービスを良くする」ことを約束させなければ、それぞれが自分の利益を守るために勝手なことを言うだけだ。
●市民憲章による約束
近年の市民憲章は、新公共経営(NPM:New Public Management) の流れを受けたもので、例えばイギリスでは次のような指針がある。
英国における市民憲章の基本行動指針
- サービス基準:個人が合理的に期待しうるサービスの明確な基準を設定し、モニターし、公表するとともに、これらの基準に対する実際の成果を公表する。
- 情報公開原則:公共サービスがどのように行われ、費用がどれほどかかり、どの程度適切に実施しているか、責任者は誰であるかということについて、完全、正確な情報が平易な言葉で書かれ、容易に入手できなければならない。
- 選択と協議:公共機関は、可能であればいつでも選択の機会を提供しなければならない。さらに、サービスを利用する者と定期的な協議を行わなければならず、基準の最終決定においてはサービスに関するユーザーの意見を考慮に入れなければならない。
- 礼儀正しさと有用性:礼儀正しく行き届いたサービスが、通常、名札をつけた公務員から平等に提供されること。
- 物事の是正:物事が間違っていれば、謝罪、完全なる説明、速やかで実効的な救済がなされなければならない。また、利用しやすく、十分に周知された苦情処理手続きが保証される。
- 効率的運営:資源の許す限り効率的かつ経済的な公的サービスの提供が行なわれる。また、基準に照らしたパフォーマンスについての、独立した実証調査が行なわれる。
出典:港湾行政マネジメントに関する研究会(国土交通省港湾局)の資料より
上記の行動指針が日本の電子政府サービスに導入されたら、格段に良くなるだろう。
英国自治体の地方憲章には、
- 自治体・他のサービス提供者の実績に関する情報
- 実績について正式な苦情を申し立てる権利
- 近隣社会による契約とサービス保証
なども見られる。
自治体や民間が提供する公共サービスについて、実績を比較したり、文句を言ったり、契約によってサービスの品質基準を定め保証させているのである。
関連>>Charter Mark|インド CITIZEN’S CHARTER|英国政府報告書(持続可能なコミュニティ:住民と地域の繁栄のために 副首相府による5カ年計画)(PDF)|市民の関与と公共サービス : なぜ近隣社会が重要か
ちなみに、日本の自治体にも「市民憲章」があるが、イギリスの「市民憲章」とは趣旨も性質も全く異なる。例として 札幌市の市民憲章を見てみよう。
札幌市民憲章
前章: わたしたちは、時計台の鐘がなる札幌の市民です。
1章: 元気ではたらき、豊かなまちにしましょう。
2章: 空も道路も草木も水も、きれいなまちにしましょう。
3章: きまりをよくまもり、住みよいまちにしましょう。
4章: 未来をつくる子どものしあわせなまちにしましょう。
5章: 世界とむすぶ高い文化のまちにしましょう。
良くも悪くも「日本人らしい」内容だ。これはこれで意味があると思うが、今の日本に必要なのは、より具体的で実行力のある宣言と約束である。
●法律による約束
行政の活動を定める法律に、約束を盛り込むことも有効だ。
例えば、韓国の電子政府法(電子政府具現のための行政業務等の電子化促進に関する法律:法律第6439号)には、次のような条文がある。
第5条(公務員の責務)3項
公務員は、電子的に業務を処理する場合において、国民の便益を行政機関の便益より優先的に考慮しなければならない。
第6条(国民便益中心の原則)
行政機関の業務処理過程は、当該業務を処理する場合において民願員(申請者)が負担しなければならない時間及び努力が最小化されるように設計されなければならない。
国民の便益(顧客の利益)を最優先し、国民のコストを減らすことを義務付けているのである。
これに対して、日本はそもそも電子政府を誰のために何のためにするのかを定める法律が存在しない。
あるのは、電子申請に関する法律「行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律」ぐらいで、その目的は
第一条(目的)
この法律は、行政機関等に係る申請、届出その他の手続等に関し、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法により行うことができるようにするための共通する事項を定めることにより、国民の利便性の向上を図るとともに、行政運営の簡素化及び効率化に資することを目的とする。
韓国の電子政府法では、
第1条(目的)
この法律は、行政業務の電子的処理のための基本原則・手続及び推進方法等を規定することにより電子政府の具現のための事業を促進させ、行政機関の生産性・透明性及び民主性を高めて知識情報化時代の国民の生活の質を向上させることを目的とする。
となっており、日本との取組み姿勢の違いは明らかである。
取組み姿勢の違いは、「コストを減らしてサービスを良くする」の成果にも大きな影響を与える。
日本のワンストップサービス(シングルウィンドウシステム)であるNACCS(通関情報処理システム)の構築費は約900億円とされるが、韓国の同様のシステム(PORT-MIS)は約20億円で構築されている。
日本の電子政府における「コスト高の体質」は構造的なものであり、ここにメスを入れないことには、日本の電子政府サービスは決して良くならない。
次回から、「原則として、全ての電子政府サービス事業を民間に委託する」について解説していくが、その背景についても明らかにしていきたい。
日本の電子政府も同様政策を執るのか?
気になる情報が流れています。アメリカ合衆国の話。
http://www.usfl.com/Daily/News/08/06/0611_022.asp?id=61464
電子認証制度の活用を義務付け~大統領、政府契約業者に
電子認証制度のこうした活用方法があるんですなぁ。。
日本でも「通用」するか、あるいは日本でこそ推進されやすいのかもしれない。
登記識別情報じゃなく登録識別情報
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1010&BID=155080917&OBJCD=&GROUP=
道路運送車両法施行規則等の一部を改正する省令案に関するパブリックコメントの募集について
登録識別情報だそうです。これで益々一般申請人の手から外れ、わけの分からない申請システムとなりますね。