日本の電子政府が良くならない本当の理由(14):外郭団体に握られる電子政府のインフラ

今回は、「電子政府に関する事業やインフラについて、外郭団体の関与を禁止する」の提案について解説する。

●外郭団体と電子政府の関係

現在、様々な電子政府に関する事業(調査研究や実証実験を含む)やインフラ(各種ネットワークや認証基盤など)の構築・運営について、競争入札も無いまま外郭団体が関与し利益を受けていることは、以前指摘したとおりである。

こうした外郭団体を「中抜き」すれば、電子政府の維持費用は2割から5割ほど削減できるはずだ。

具体的な事例を挙げておこう。

まずは、電子政府・電子自治体のネットワーク基盤から。

  1. 住民基本台帳ネットワークシステム:財団法人 地方自治情報センター(LASDEC)
  2. 総合行政ネットワーク(LGWAN):財団法人 地方自治情報センター(LASDEC)
  3. 霞が関WAN社団法人 行政情報システム研究所

関連>>電子政府・電子自治体のネットワーク基盤

続いて、認証基盤。

  1. 政府認証基盤(GPKI) :社団法人 行政情報システム研究所
  2. 地方公共団体組織認証基盤(LGPKI) :財団法人 地方自治情報センター(LASDEC)
  3. 公的個人認証サービス自治体衛星通信機構(公的個人認証サービスセンター)

いずれも総務省系の公益法人である。しっかり住み分けをしており、省内の縦割り構造や力関係を示唆している。

実証実験では、経済産業省系も強い。

官民連携ポータル:財団法人ニューメディア開発協会

関連ブログ>>電子申請の仲介サービス、ビジネスとしての可能性は?

実稼動しているサービスでは、本ブログでもたびたび取り上げている

インターネット登記情報提供サービス財団法人 民事法務協会

などがある。

関連ブログ>>オンライン登記情報提供制度、電子政府は健全な競争が大切米国のオンライン企業検索サービス、日本は癒着構造の見直しを

●外郭団体の独占で、サービスの質は低くなり、コストは高くなる

外郭団体に電子政府のインフラやサービスを任せる理由は見当たらない。

多額の税金を使うのだから、

  • 競争入札で事業者を決めて
  • 契約で責任を明確にし
  • 業績を評価し
  • その内容を公開し
  • 国民に対する説明責任を果たしていく

とするのが当然である。ところが、そうしないのが今の「ニセモノ電子政府」である。

外郭団体が関与することの弊害は大きく、サービスの質は低くなり、コストは高くなる。

例えば、1億円の電子政府プロジェクトがあった場合、

政府(1億円)>>外郭団体(3000万円)>>民間企業(7000万円)

となり、3000万円の中間搾取がある。外郭団体を排除すれば、

政府(7000万円)>>民間企業(7000万円)

となる。5000万円の中間搾取があれば、半分で済む。

数少ない「収益性のある電子政府サービス」であるインターネット登記情報提供サービスは、登記情報が閲覧されるたびに、「民事法務協会」にお金が流れることになっている

そのくせ、利用時間は「平日の午前8時30分から午後9時まで(これでも延長された)」という「殿様商売」ぶり。今どき、そんなインターネットサービスが許されて良いのか。

サービスを外郭団体の独占とせず、複数の企業に競争させながら運営すれば、こんなバカな話も無くなるはずだ。

しかしながら、こうした個別の実証実験やサービスへの関与は、まだマシと言える。

これに対して、ネットワークや認証といった基盤(インフラ)が、外郭団体に握られている現状は、かなり深刻だ。

なぜなら、インフラへの関与は、より強力な既得権益基盤を生み出してしまうからだ。

個々のサービスなら「使わない」という選択肢があるが、インフラの場合は、国民や自治体やベンダーに「使わない」という選択肢は無いに等しい。

国民の税金を使って運営しつつ、自治体やベンダーからは利用料(=参入障壁となり、サービス維持コストを高くする)を徴収する。そのお金が、外郭団体へ流れている。

個別サービスと違って、一度作ったインフラは、そう簡単には無くならない。インフラの廃止は、他のインフラやサービスへの影響が大きいからである。

収益の確実性・安定性という観点では、一過性のプロジェクトや個別サービスよりも、圧倒的に優位なのである。

●まずは情報公開、そして限られた資源の再配分を

現在、電子政府のインフラについて、コストに関する情報が公開されていない。

構築費や年間運用費がいくらで、外郭団体へどの程度流れているのかを、政府が調査して、結果を公開するべきである。

関連>>「社会保険オンラインシステム刷新可能性調査」の結果について

その上で、「外郭団体の関与を禁止する」といった措置により、無駄な仲介コストを無くし、サービスの質を高めていけば良い

次に行うのが、資源の再配分だ。

経済成長率が低下し、社会保障費等の支出が増加し、国民のニーズや社会問題が多様化・複雑化する中で、行政サービスに使えるお金や人は、今後ますます少なくなる。電子政府サービスも例外ではない。

関連>>公的支出の推移国の借金の状況厚生年金、国民年金の積立金運用国の貸借対照表と行政コスト(平成17年度)

もはや、限られた資源を外郭団体に優遇分配している余裕は無いのである。

そうした無駄な仲介コストは、国の競争力を低下させ、国民の信頼を失くすだけでなく、確実に公務員や外郭団体職員の首を絞めることになる。

昨今の不祥事企業を見ても分かるとおり、国民や社会や市場から見限られた業界と労働者の末路は、実に哀れなものである。

現在、進められている「公務員制度改革」や「地方財政改革」は、公務員や外郭団体職員が自らの身の振り方を決める最後のチャンスかもしれない。

この辺りは、本連載の後段で詳しく解説するつもりだ。

さて、外郭団体への無駄なコストを減らせば、その分を人材育成や技術分野へ投資できる。

今後、日本の電子政府分野で必要な人材は、

  1. 行政改革、政治改革、経済政策などの視点から電子政府を捉えて、日本の実情や歴史的経緯等を踏まえた(文脈を理解した)戦略を立てられる人材
  2. 徹底した「国民の視点」を貫けるサービスマーケティング等の専門家
  3. 電子政府施策を分析・評価し、「費用に見合った価値(具体的な成果)」へと導く人材

これは、作者自身が目指すところでもある。

次回は、最後の提案である「士業の業務独占を廃止し、行政手続の仲介・代行サービスを自由競争とする」について解説していく。

“日本の電子政府が良くならない本当の理由(14):外郭団体に握られる電子政府のインフラ” に4件のコメントがあります

  1. 骨太方針2008にも・・・・
    骨太方針、経済財政改革の基本方針2008には、
    公益法人改革を入れ込みしています。

    http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2008/0627/item1.pdf

    そこには、「随時契約の原則廃止」をうたう。が、さすがに役人文書で、”原則”って入れている。例外がある、その例外が多いのだが。

    ともあれ、公益法人の大改革も喫急の課題です。
    法務省は所管法人の民事法務協会への立ち入り調査を徹底してやっているのでしょうか。その情報開示も。

  2. 自民党のプロジェクトチームも
    http://www.jimin.jp/jimin/seisaku/2008/pdf/seisaku-019b.pdf
    無駄遣い撲滅対策・第1次緊急とりまとめ
    無駄遣い撲滅プロジェクトチーム

    こちらにも、「4,公益法人の見直し」をぶち上げている。また、民事法務協会に至っては、「組織の在り方を抜本的に見直す」と名指しされてもいる。

  3. 叩かれる民事法務協会
    元副大臣にこれほど叩かれる天下り先もめずらしい。

    さて、法務省オンラインですが、またぞろJREにセキュリティーホール。
    http://java.sun.com/j2se/1.4.2/ja/ReleaseNotes.html#142_18

    この前入れ換え作業を大々的に行ったばかりで、アナウンスしにくいのか。

    それはさておき、登記情報提供サービスそのものの競争入札を実施しないと、ほんとにいいサービス提供はできませんね。

    地図もしょぼいし。グーグルあたりに任せれれば、航空写真どころか3D表示も夢じゃない。

  4. まだまだ修行が足らないなぁ

    法務省:「行政と密接な関係にある公益法人への支出の無駄の総点検について」
    http://www.moj.go.jp/PRESS/080704-1.pdf

    民事法務協会を徹底して点検してほしいところですが・・・。

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