MBR Consulting マナブーズ・ルーム・コンサルティング
電子申請への期待 - 使える電子申請になるための心得 - 2002年10月9日

Home >>> 論考・資料室 >>> 電子申請への期待
 
作者の考える、「使える電子申請になるための心得」を紹介しています。

要旨:
使える電子申請になるための心得は、

  1. 電子申請に過度な期待をしない
  2. 感謝の気持ちを忘れない
  3. 国民に期待しない
  4. 特別な技術のいらない電子行政サービスを極める
  5. ユーザビリティを向上させる
  6. 月ごとの利用状況をリポートする
  7. 縦割り行政からの脱却
  8. 愛情を持って長い目で見ることも大切
 
今回は、作者の電子申請に対する思いも込めて、ちょっと厳しく。

使われない電子申請

インフラの整備も進み、いよいよ本格的なインターネット電子申請が開始されつつあり、実際に運用が開始されているものある。しかしながら、作者の知る限り、その利用状況は厳しいというか、はっきり言って、ほとんど使われていない。利用するにあたって面倒な手続が必要な割には、利用メリットが少なく、国民に使う価値が無しと見られているのであろう。

こうした状況に対して、行政や開発ベンダー側では問題と認識しているのであろうが、電子申請が使われなくても、職を失うわけでも減給されるわけでもないので、国を挙げての電子政府推進策が中止されない限り、税金がどんどん浪費されていくことになる。

住基ネットの構築が、国民不在の形(説明不足、広報不足)で進められ、大きな不信感を買ってしまったように、電子申請もかなりやばい状況である。何がやばいって、それは実際の電子申請システムを使ってみればわかる。はたして実際の申請(ゴール)まで辿り着ける人が、どれくらいいるであろうか。

高い、遅い、面倒くさいの3拍子が揃っていることに、怒って文句を言われるのはまだましで、普通は「シカト」つまりは無視である。ネットユーザーは、そんな面倒なことに付き合っているほど寛容でも暇でもないのである。政府は、有識者等を集めて電子政府関連の評価を行ったりするが、そうした有識者の方で、実際に電子申請を使ってみたという人が果たして何人いるのだろうか・・・。

インターネットの世界は競争が厳しく、利用価値がないと見られれば、いくら優れた技術を使ったサービスであっても、寂しく消えていくだけである。懸命な企業であれば、撤退もしくは規模縮小であろうが、これが行政となると、ダラダラといつまでも続くことになるのだから、始末が悪い。

使えない電子申請でも

あまり悪いことばかり言っても寂しいので、使えない電子申請であっても、それなりの成果はある。

例えば、手続が見直し・簡素化されることである。電子申請の推進をきっかけに、添付書類が一部不要になったり、要件が緩和されたりするのは良いことである。

また、技術が磨かれることも挙げられる。電子政府・電子申請には、最新の技術が利用されるので、日本の優れた技術力が発揮されることになる。しかしながら、技術優先の電子政府政策が、使えない電子申請の原因ともなっていることは反省したい。

電子政府・電子申請が、一つの大きな産業となっていることで、雇用が増えるのも良いことであろう。しかしながら、使えない電子申請を使いこなすための人材登用で雇用が増えるのは良くない。

使える電子申請になるための心得

作者が考える、使える電子申請になるための心得は次の通り。

電子申請に過度な期待をしない

電子申請への期待は大きく、その可能性は大きい。しかし、過度な期待は良くない。ネットビジネスでも成功しているのは極一部である。捕らぬタヌキ計算をする前に、現実を見るべし。

感謝の気持ちを忘れない

電子申請は、利用してもらって初めて電子申請といえる。一件一件の利用に対して、感謝の気持ちを忘れないように。この感謝の気持ちが、サービス向上に繋がるはず。

国民に期待しない

とりあえずスタートさせて、後は利用者の意見を聞きながら改良していけば良い。そんな気持ちであれば、いつまでたっても使われない電子申請のままである。もちろん、始めることは悪いことではないが、まずいラーメン屋に入った客が、どうすればもっと美味しいラーメンを作れるかを店主に教えてあげることがないのは、電子申請でも同じである。使えない電子申請は国民に「シカト」されるので、利用者の意見など期待してはいけない。

特別な技術のいらない電子行政サービスを極める

現行の安価な技術を駆使したサービスを提供できないのに、最新技術を使ったところで良いサービスなど期待できるわけもない。まずは、電子認証やICカードの要らない電子行政サービスを極める努力をするべきである。シンプルな機能で最高のサービスを提供することができれば、使える電子申請も夢ではない。

政府はデジタルデバイドの解消を推進しているが、今のままでは、電子認証もICカードも、そして電子申請も、デジタルデバイドを増やすことにしかならない。

ユーザビリティを向上させる

Webのユーザビリティはもちろんであるが、要は利用者が欲しい情報やサービス(ゴール)に、いかに迷うことなく簡単に辿り着けるかという問題である。例えば、あるビジネスをするのに国の許可が必要としたら、その許可制度がなくなるのがゴールへの一番近道である。好き好んで電子申請を利用する人はいないのだから、利用する人のゴールを理解して、ゴールまでの最短で安全な道を示すことが、電子申請ユーザビリティの役割である。

月ごとの利用状況をリポートする

既に運用が始まった電子申請・電子認証システムであるが、その利用状況が公表されない。月ごとの詳細なレポートをWeb公開して、いかに使えない・使われない電子申請であるかを、国民に情報開示するべきである。一時の恥に耐えてこそ、使える電子申請への道が開かれるのだ。

縦割り行政からの脱却

電子申請システムの話を聞くと、省庁内の情報交換が少ないことに驚かされる。名前だけのCIOなどはどうでもいいから、申請システム、電子決済、電子入札、個人・企業認証といった電子申請に関連する担当者が、省内または省庁間の縦割りを越えて、情報共有を進めるべきである。これだけでも、重複する作業を少なくなるであろう。作者個人としても、そうした場を作って提供することができればと思う今日この頃である。

電子申請への期待

さて、いつになく辛口トークであったが、電子申請に対しては愛情を持って長い目で見ることも大切である。ネットビジネスも多くの混乱や失敗を経験して今日がある。そうした、先人の失敗や教えを生かして、電子申請も成長していかなければいけない。

生まれた時からブロードバンドのインターネット環境が当たり前となる世代では、電子申請など珍しくもなくなるであろう。しかし、電子申請(電子行政サービス)は提供されて終わりでなない。

電子申請が有効に機能することで、住民や企業の可能性が広がる。役所に対する信頼感(ブランド)も高まる。自分たちでも政治に関与して町づくりに貢献できると感じるようになる。

役人だって、建前で話してマスコミにびくびくする必要はない。もっと本音で対等に住民と渡り合える。そんな住民と役所の関係が生まれた時、電子申請の可能性は大きく広がることになる。もちろん、作者自身は、そうした電子申請の可能性を信じている一人である。


All Rights Reserved. Legal Notices. Copyright 1999-2004 Manabu Muta