住基ネットに関する最近の利用動向などを踏まえて、作者が考える問題点等をQ&A形式で整理したものです。 以下は、2005年7月31日(日)放送のNHK「BSディベート」という番組で住基ネットを特集するにあたり、製作者から頂いたご質問への回答に補足等をしたものです。 |
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なぜ住基ネットは普及しないのか 住基ネットの利用者は、行政職員(主として市町村)であり、既に全国規模で稼動し利用されていますので、住基ネット自体は普及していると言えます。 他方、住基ネットから派生し連動するサービス(住基カードと多目的利用サービス、公的個人認証サービス)については、ご指摘のとおり普及していません。 住民基本台帳カード(住基カード)の交付状況等について(平成17年3月末現在) 原因はいくつも考えられますが、「有償発行の住基カードがなくても行政サービスは利用できるし、たいしたメリットも感じられず、特に必要ない」というのが、市民から見た正直な理由だと思います。 住基ネットで住民の生活は便利になったか 住基ネットは、情報通信ネットワークですが、インターネットのように様々な情報が流通することもなく、住民が直接利用することもできません。ですから、住基ネットそれ自体が何かしてくれるわけでもなく、住民の生活を便利にしてくれるわけでもありません。 個々の住民が住基ネットの恩恵を受けるためには、住基ネットを行政職員が活用し、住民に対するサービス(オンラインサービスはもちろん、窓口等の対面サービスも含みます)の質を向上していくしかありません。 しかし、住基ネットの機能(保有する情報や利用目的)は限られており、行政サービスの質を向上させる一つの要素にしかなり得ませんので、「住基ネットで住民の生活は便利になったか」と考えることは、少し無理があるように思います。 例を挙げますと、 パスポート申請に住民票の写しの提出が不要となっています(外務省)が、依然として「戸籍謄本・抄本」などの書類が必要であり、市町村役場やパスポートセンターの窓口に足を運ぶ必要があります。 この例を見ても、「住基ネットだけでは」住民の生活は便利にならないし、行政サービスも良くならないことがわかると思います。 住基ネットで行政の効率化は進んだか 上記の回答と重なりますが、住基ネットのおかげで行政の効率化が進むということは、ほとんどありません。 例えば、北海道A市の事務処理で、沖縄のB市に住むYさんの本人確認(住基ネットが保有する基本4情報だけで処理が済むもの)が必要となった場合、住基ネットを利用することで、今までよりは時間を短縮することができますので、行政の効率化に貢献できたと言えるでしょう。 しかし、北海道A市において、仕事のやり方が今までと変わらず(多くの決裁や回覧が必要など)、役所内の情報通信ネットワーク環境(LAN、一人一台のパソコンなど)が整わず、職員にサービス精神やコスト感覚がなければ、行政の効率化は進まないでしょう。 住基ネットの機能は限られています。 強みは、全国規模であること(情報の量:広域性) 弱みは、4情報+住民票コード等しか流通しないこと(情報の質:個別・具体性) です。住基ネットを活用したいのであれば、強みを生かして地域を越えた住民サービスを展開し、他のインフラや機器等と補完しあいながら、より個別・具体的なサービスを充実させることが良いでしょう。 ただし、費用対効果を考えると、住基ネットの必要性に対して疑問の声が上がるのは、当然のことと思います。政府が今後も住基ネットを稼動させていくためには、住基ネットの活用と具体的な効果について定期的に調査し、情報公開し、評価・改善していくことが必要と考えます。 データの流出やプライバシー権の侵害は防げるか もちろん、完全に防ぐことはできません。これは、住基ネットに限らず、行政(民間も)が保有する個人情報等のデータベースやシステム全てに共通することです。 データの流出については、一定の措置がとられており、それほど問題ないと思います。職員による悪用(外部持ち出し等)については罰則等による抑制があるものの、個人的な興味からの覗き見などまで防止することは難しいでしょう。 住基ネットのリスク(悪用される可能性を高める要素)としては、
があると思います。対応策としては、
などが考えられます。 住基ネットは、他の乱立する自治体系システムと比較すると、セキュリティレベルが高いので、本当に住民の個人情報が欲しい場合は、住基ネットを狙わず、他の方法が取られると思います。 住基ネットは、話題性もあり批判も多いので、「住基ネットを攻撃すること」自体が目的とされることもあると思いますが、今のところは不正侵入等がないようなので、やはりセキュリティレベルは低くないと考えて良いでしょう。 電子政府の推進は必要か 「電子政府」で政府が何を実現したいかにもよりますが、 国民からの要望(インターネットを利用したサービスなど)があり、国際的な競争力の向上や、経済・社会活動の発展を促すために、そして、行政の透明性や公平性を向上させるためにも、「電子政府」という考え方は有効であると思いますので、個人的には必要であると考えています。 ただし、「電子政府」それ自体が目的となってしまうと、費用と手間がかさむばかりで、良いことはないので、気をつけて欲しいと思います。 また、国民が「電子政府を利用しない」という選択肢を持つことは必要だと思います。「住基カードを持っていない」「インターネットが利用できない」といった理由から、基本的な生活に関係するような行政サービスが受けられなくなる(制限される)ことは避けるべきです。 その一方で、受益者負担の意味から、一部の行政サービス等については、電子化・オンライン化(電子政府の利用)を義務付けることは、やり方にもよりますが悪くないと思います。 受益者負担の例としては、公共事業の電子入札、大企業による電子申告、ビジネスに必要な許認可の電子申請などが挙げられます。 参考サイト 住民基本台帳ネットワークシステム LASDEC 財団法人
地方自治情報センター 組織。電子政府・電子自治体情報セキュリティ関連資料提供プロジェクト 電子自治体情報 MSN-Mainichi INTERACTIVE 住基ネット 電子政府・電子自治体のネットワーク基盤 |
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