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タイムスタンプに見る電子文書のあり方 2004年6月14日

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タイムスタンプを利用した電子文書のあり方について、提言しています。
 
先日、タイムビジネス推進協議会が主催する第3回タイムビジネスシンポジウムに参加してきました。電子政府や電子商取引など、様々な場面での利用が想定されるタイムビジネスの現状を理解することができ、作者としても大いに刺激を受ける所がありました。

その中で、作者が気になった点を取り上げながら、電子文書のあり方について書いてみたいと思います。

実利用を想定した展開

調査研究分科会の三谷氏による『タイムビジネス市場調査及びドイツ視察報告』の中で、今後の方向性として「各分野に即した運用面の検討」というものがありました。

ニーズ=実際の利用とはならないので、具体的な業務フローや運用の中にタイムビジネスを組み込んでいく必要があるというものです。

これはまったくその通りで、例えば、社内にタイムスタンプを利用した電子文書の導入を検討するとします。この場合、どのような紙文書・電子文書が、どんな意味を持って、どのように流通しているのかを整理する必要があります。

電子署名や電子証明書も同様です。

例えば、士業の電子証明書にしても、実務での利用を想定しながら、(紙と電子が混在する)現在の業務フローを整理しないことには、とても使えるようにはならないのです。

公的個人認証サービスも、市民が役所のサービスを利用する、インターネットを利用するといった生活フローを考えないことには、彼らの生活の中に組み込んでもらえないのですね。

裁判を想定する

『タイムビジネス市場調査及びドイツ視察報告』の中で、もう一つ気になるものが。。それは、ドイツの郵電規制庁のコメントにある「タイムスタンプの有効性について訴訟シュミレーションを行っている」というものです。

これは、「実利用」という観点から非常に大切なことですが、「情報マネジメント」という観点からも大切なことです。

作者の場合、情報を「人、物、文書(電子文書を含む)」の3つに分けて考えています。これは、法律上の「証拠」に対応する分類です。

また、文書を作成することには二つの意味があります。

一つは「情報を伝える・共有する」ということ、もう一つは「トラブルに備える」ということです。これは、紙文書でも電子文書でもおなじことです。

そして、「トラブルに備える」ということは、訴訟に対応するということです。

どんなに高価で先端の技術を採用した電子文書であっても、裁判の時に「証拠」としての価値が低ければ、「トラブルに備える」という観点から見ると、良い電子文書ではないということです。

もう一つ注意したいのは、電子文書への電子署名・タイムスタンプ=「トラブルに備える」とはならないということです。

なぜなら、実際の裁判では様々な「証拠」が出てくるかもしれないからです。メモ書き、電子メール、FAX、証人などなど。

そう考えると、「タイムスタンプの有効性について訴訟シュミレーション」ではなくて、例えば「ライセンス契約に関する争い」の中で、電子署名やタイムスタンプのある電子契約書が出てくる。しかし、その契約内容と異なるメモやFAX、電子メールなどもある。そんなシュミレーションが必要なのだと思います。

日本でも、電子署名法があり、法人代表者や個人による電子署名が可能となっています。でも、実際に電子署名で契約書を作成した場合、その契約書は「トラブルに備える」という観点から見て、どれだけ有効なものなのか。紙と比べてコストや手間がかかるのではないのか。そんな心配や不安があることでしょう。

そうした不安を解消するには、法的な安定性や予見可能性を高める措置が有効でしょう。そして、その際には「紙」も有効に活用すれば良いのです。

タイムビジネスや電子署名・認証を、具体的な業務フローや運用の中に組み込み、かつ訴訟まで見据えた対策を取ることは、非常に難しいものです。

だって、タイムスタンプや電子署名・認証ソリューションを提供する企業が、タイムスタンプや電子署名を活用して、ペーパーレスを実現しているかと言えば、そういうわけではないのですから。

機会があれば、電子署名やタイムスタンプを導入する際の注意点などを整理したいと思いますが、大切なのは、「電子」とか「紙」にこだわり過ぎないで、あくまでも「情報」を中心として考えることだと思います。

確定日付と民法施行法

今回のシンポジウムで一番驚いたのが、規制改革要望WG報告にあった「民法施行法第5条の一部改正の要望」です。ここで、一定の基準を満たしたタイムスタンプにも確定日付としての効力を付与して欲しいと要望しているのです。

民法施行法第5条を見ると、確定日付は、原則として公(お上)が付与するものとされています。公証人、法務局、郵便局、官庁などなど。そこに、民間業者が参入しようとしているのですから、ずいぶん思い切った要望だなあと驚いたわけです。

たしかに、「トラブルに備える」という観点からは、文書の証拠力に大きな影響を与える(民法施行法第4条、民法第467条など)確定日付は大切です。民法施行法も、なにせ明治時代に作られた古い法律のため、いろいろと矛盾が出てきているのも事実でしょう(郵政民営化など)。

ですから、市民や企業が、安価なオンラインサービスとして利用できる確定日付のサービスがあっても良いとは思います。ただし、本当に確定日付が必要なケースは限られていますし、現状のサービス(公証人、内容証明など)で不便があるかと言えば、そういうわけでもないと思います。

また、民法施行法の確定日付に関する考え方は、「どのように」付与するか(方法)より、「誰が」確定日付を付与できるか(人)を重視していると言えますので(法律が規定する方法ではインチキが可能なので)、その意味でも民間への開放は難しいかもしれません。


民法施行法

第四条
 証書ハ確定日附アルニ非サレハ第三者ニ対シ其作成ノ日ニ付キ完全ナル証拠力ヲ有セス

第五条
 証書ハ左ノ場合ニ限リ確定日附アルモノトス
  一  公正証書ナルトキハ其日附ヲ以テ確定日附トス
  二  登記所又ハ公証人役場ニ於テ私署証書ニ日附アル印章ヲ押捺シタルトキハ其印章ノ日附ヲ以テ確定日附トス
  三  私署証書ノ署名者中ニ死亡シタル者アルトキハ其死亡ノ日ヨリ確定日附アルモノトス
  四  確定日附アル証書中ニ私署証書ヲ引用シタルトキハ其証書ノ日附ヲ以テ引用シタル私署証書ノ確定日附トス
  五  官庁(日本郵政公社ヲ含ム)又ハ公署ニ於テ私署証書ニ或事項ヲ記入シ之ニ日附ヲ記載シタルトキハ其日附ヲ以テ其証書ノ確定日附トス
 2 指定公証人(公証人法 (明治四十一年法律第五十三号)第七条ノ二第一項 ニ規定スル指定公証人ヲ謂フ以下之ニ同ジ)ガ其設ケタル公証人役場ニ於テ請求ニ基キ法務省令ノ定ムル方法ニ依リ電磁的記録(電子的方式、磁気的方式其他人ノ知覚ヲ以テ認識スルコト能ハザル方式(以下電磁的方式ト称ス)ニ依リ作ラルル記録ニシテ電子計算機ニ依ル情報処理ノ用ニ供セラルルモノヲ謂フ以下之ニ同ジ)ニ記録セラレタル情報ニ日付ヲ内容トスル情報(以下日付情報ト称ス)ヲ電磁的方式ニ依リ付シタルトキハ当該電磁的記録ニ記録セラレタル情報ハ確定日付アル証書ト看做ス但公務員ガ職務上作成シタル電磁的記録以外ノモノニ付シタルトキニ限ル
 3 前項ノ場合ニ於テハ日付情報ノ日付ヲ以テ確定日付トス

民法

第四百六十七条
 指名債権ノ譲渡ハ譲渡人カ之ヲ債務者ニ通知シ又ハ債務者カ之ヲ承諾スルニ非サレハ之ヲ以テ債務者其他ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
 2 前項ノ通知又ハ承諾ハ確定日附アル証書ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ以テ債務者以外ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス


消費者保護とタイムスタンプ

今回のシンポジウムでは、「タイムビジネス」、つまり事業者側から見たタイムスタンプの利用が中心だったと思います。

作者が今後期待することは、改ざんが容易で原本性の確保が難しいとされる電子データについて、消費者・申請者・患者など不利な立場に置かれやすい人たちを保護するという視点が盛り込まれることです。

第三者機関による「時刻」という客観的な情報を付与することで、消費者契約、電子申請、電子カルテなどの透明性・公平性を高めることが可能だと思います。

タイムスタンプが、「トラブルに備える」だけでなく、「不正行為に対する抑止力」として機能することができれば、タイムビジネスの可能性も大きく広がるのではないでしょうか。

参考サイト

タイムビジネス推進協議会
http://www.scat.or.jp/time/

PKI 関連技術解説
http://www.ipa.go.jp/security/pki/index.html

タイムスタンプ・プロトコルに関する技術調査
タイムスタンプ技術に関する調査報告書
http://www.ipa.go.jp/security/fy15/development/pki_interop/index.html

電子署名とタイムスタンプ(国立印刷局)
http://www.npb.go.jp/ja/info/pki_time.html

法令データ提供システム
http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxsearch.cgi

 


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