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住基ネットを考える(1) Home |
●住民基本台帳ネットワークシステムの構築 ●住民基本台帳ネットワークシステムの稼動について(PDF) ちまたで話題の住基ネットですが、作者自身の勉強も兼ねて、その仕組みや役割、問題点等を整理してみることにしました。住基ネットに関する理解や議論の参考としてもらえれば嬉しいです。 (1)住基ネットとは 正式な名称を「住民基本台帳ネットワークシステム」と言い、全国の市区町村の住民基本台帳をネットワーク化したものであり、全国共通の本人確認手段として利用される。 キーワードは、「住民基本台帳」「全国市区町村ネットワーク」「本人確認手段」でしょうか。 「住民基本台帳」とは、 住民基本台帳法に基づき全国の市町村(市町村長)が作成するものであり、住民票を世帯ごとに編成してまとめられたものである。一般市民にも馴染み深い「住民票の写し」は、住民基本台帳の一部を写して交付するものですね。 「住基ネットにより全国共通の本人確認ができる」というのは、 例えば、沖縄県のA町に対して、北海道のB村に住所があるMさんから申請がありました。今までであれば、Mさんに住民票の写しを提出させて本人確認するのですが、住基ネットを利用すれば、住民票の写しを提出させないで、A町の方でMさんが北海道B村の住人であることを確認できるというわけです。 なお、確認できるのは、「Mさんと言う人が北海道B村の住人であるということ」だけで、申請したのがMさん本人であるどうかは確認できない。まあ、当たり前の話ですが、この意味での本人確認がしたければ、運転免許証の提示を求めるなど別途手段をとる必要があります。 住基ネットを利用したサービスの例として挙げられる、 ・全国どこの市区町村からでも、住民票の写しを交付。 なども、住基ネットを経由して全国の市町村間で住民情報の確認が可能になるから実現するのですね。住基ネットの目玉とするには、あまりにもしょぼいサービス例ですが、とりあえず稼動時にできるのはこれぐらいなので、仕方なく提示しているのでしょう。 そもそも住基ネットは、役所間を結ぶネットワーク基盤に過ぎないので、これ単独で行政サービスの向上が実現するはずもないのです。社内にLANを構築したから、ヒット商品・サービスが生まれるわけはないのと同じことです。 もちろん、電子政府・電子自治体の実現という観点からは、住基ネットは重要なインフラです。場所や時間を問わない電子行政サービスを提供するためには、全国どこの市町村からでもオンラインで本人情報の確認ができる仕組みが必要になるからです。ただし、この場合でもインフラの一つに過ぎないことは認識しておきたいですね。 住民基本台帳に関連する制度として、戸籍、外国人登録があります。それぞれ目的や役割は異なりますが、どれも市区町村において電子化され管理・保存されている公文書です。それぞれを比較すると、下記図のようになります。 住民基本台帳制度の本旨からすれば、住基ネットは、「住民の利便増進や行政の合理化のために利用されなければいけない」ということですね。 これら制度において共通するのは、システムの性格上、記載・登録されている内容が、必ずしも事実と同じではないということです。職権により追加・修正される場合もありますが、基本的には自己申告で内容を追加・変更するからです。 |
住民基本台帳に関連する制度の比較 法令データ提供システム | |||
住民基本台帳 | 戸籍 | 外国人登録 | |
法律 | 住民基本台帳法 | 戸籍法 | 外国人登録法 |
対象 | 市町村の住民 | 国民 | 日本に住む外国人 |
記載事項 | 14項目(法第七条) | 8項目(法第十三条) | 20項目(法第四条) |
事務処理 | 市町村長 | 市町村長 | 市町村長 |
所轄官庁 | 総務省 | 法務省 | 法務省 |
特徴 | 住民の利便増進や行政の合理化を目的とする。住民の居住関係の公証など住民に関する事務処理の基礎となり、行政サービスの提供には欠かせない制度。外国人住民は対象外となる。 | 国民各個人の身分関係(婚姻、出生、養子縁組など)を公証するもの。本籍を定めた市町村に夫婦とその子供ごとに編製される。外国人は対象外となる。 | 在留外国人の公正な管理を目的とする。外国人の居住関係および身分関係を明確にする登録制度。外国人の管理という目的があるものの、外国人住民に対する行政サービスの提供について重要な機能を果たしている。 |
(3)住基ネットが保有する個人情報 住基ネットは、住民基本台帳に基づくものであるが、保有する情報は本人確認情報(氏名、性別、住所、生年月日、住民票コード及びこれらの変更情報)に限定されています。 個人情報としては基本的なものである氏名、性別、住所、生年月日の4つを合わせて「4情報」と言います。4情報を確認すれば、全国市区町村の個人を特定できるとされますが、その通りでしょう。住民票コードは、いわゆる「住基コード」と言われるものです。 つまり、住基ネットに載るのは 4情報+住民票コード+これらの変更情報 ということになります。住民票に記載される事項のうち、ほんの一部であり、本人確認手段として機能させるための最低限必要な情報ということですね。 住基ネットにより、全国どこの市区町村においても住民票の写しの交付が受けられるようになりますが、この場合の住民票の写しについては戸籍の表示の記載がありません。それは、戸籍情報は住基ネットで確認できないからです。 ちなみに、住民基本台帳(住民票)には、住基ネットが保有する情報に加えて、世帯主に関する情報、本籍に関する情報、選挙権に関する情報、国民健康保険・介護保険・国民年金・児童手当に関する情報など14項目あまりの情報(それぞれの変更情報を含む)が載っています。(住民基本台帳法第七条) 個人情報保護の観点から言えば、住基ネットについてはそれほど心配することはないでしょう。セキュリティレベルが高いことに加えて、その保有する情報が「4情報+住民票コード+これらの変更情報」に限定されているからです。 つまり、非常に高いセキュリティを突破する苦労と比較して、得られる対価が小さいということです。例えて言えば、ものすごく高価で強度の高い金庫に、1円玉で10万円入っているようなものでしょうか。 住基ネットに関して言えば、他の行政機関が保有する個人情報管理システムと比較しても、個人情報保護措置は頭二つぐらい抜けたレベルにあると思います。 ア)住基ネットの情報を民間が不正取得・利用する場合 個人情報の経済的な価値は、内容・鮮度・利用目的などで変わってくると思いますが、氏名、性別、住所、生年月日、住民票コードでは、たいした価値があるとは思えません。数万人分の電子データで数十万円というところでしょうか。 住民票コードの価値を計るのは難しいですが、民間部門が住民票コードを利用することが禁止されている現状では、保有するだけで違法性が問われるため、価値はゼロかマイナスでしょう。取得・保有するリスクに対して、利用価値が低いと言うことです。米国の社会保障番号のように民間利用が解放され、社会的に流通すると、一定の価値が認められるようになると思います。 ●ITPro 米国最新IT事情:米国版「住基ネット」の実態 セキュリティは、一般的に一番弱い部分が狙われます。もし、住民の個人情報を不正に入手したいと思う人がいれば、住基ネットは狙わず、もっと弱い部分を攻撃して、よりたくさんの個人情報を入手することでしょう。 イ)住基ネットの情報を内部の者(公務員等)が不正取得・利用する場合 民間の場合と同様に、内部の者が住民の個人情報を不正取得・利用(閲覧等)しようと思えば、住基ネットは狙わないでしょう。もっと簡単にたくさんの情報が入手できるのですから。 公務員による漏洩や不正閲覧等については、住基ネットを心配する暇があれば、役所が電子データとして保有する住民票、戸籍、外国人登録、各種申請・届出に関する情報の管理を考えるべきだと思います。先頃ニュースになった、警察機関による戸籍情報の自由閲覧などは、この分野の問題ですね。 予算的に困難と思いますが、公務員にID番号とIDスマートカードを持たせて、行政が保有する個人情報等へのアクセス制限・管理を行うなど、不正ができない環境を作るべきでしょう。 住基ネットの議論をきっかけに、行政機関が保有する個人情報の管理について、改めて検討されることは良いことだと思います。法制度の整備は進められているものの、技術面・運用面における不備があると思うからです。 |
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